特にZ世代をはじめとした若年層は「欲求を満たしたくとも全ての欲求は満たせない」と理解しているからこそ、支出したコストに対して高い効用を求める。Z世代のいう「損」とは、従来の費用対効果に見合わない消費結果に加えて、他の消費機会を奪われたこと(機会損失)や、自分が一切関与していなくとも他人が得をしている状態も指す。
「こんなつまらないモノを消費しなければ、他に楽しいものが消費できたかもしれないのに」「皆はタダでもらっているのに、私は定価で買った」といったように、実際に損失が生まれていなくても、マイナスの感情を避けたいと考えており、損を回避することが消費を決定付ける大きな要因になっている。
このような背景から、YouTube動画よりもショート動画のように手短に終わり、かつ動画が大して面白くなくともさほどダメージのない、短尺動画の方が心理的負担が少ないともいえるわけだ。実際、UUUMでも直近の3〜5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画の再生数を上回る水準にまで増加したという 。
YouTubeショートは「見るつもりはなかったけれど、惰性でだらだらと見れてしまう」という特徴から、スキマ時間に動画を見る層を獲得しやすい側面もある。少ない労力で作成でき、バズることも多々あるため、登録者数の少ないYouTuberがショート専用の動画投稿に力を入れるようになった。
しかし、自身のチャンネルで配信している普段の動画とショート動画に、必ずしも親和性があるわけではないため、「ショートの動画は見るが、普段の動画は見ない」という登録者も少なくない。YouTubeショート動画だけに力を入れると、チャンネル登録者数が増加したのに、収益がほとんど変わらないという現象が起きてしまう。
タイパ志向に基づく短尺動画の需要はますます拡大していくと思われる。現状、多くの有名YouTuberが、数年前と比較すると同じような企画をやっているはずなのに、動画再生数が伸び悩んでいる。特定の事務所、特定のYouTuberに限った話ではなく、YouTuber全体の問題といえるかもしれない。
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