ビッグモーターの“叱責LINE”に驚愕 なぜ社長の息子は「恐怖政治」にハマったのかスピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2023年08月01日 10時56分 公開
[窪田順生ITmedia]

成長目標は「過剰なノルマ」に変わる

 それがよく分かるのが、19年版の『中小企業白書』だ。この中で、中小企業の社長に対して「後継者を決定する上で最も重視した資質・能力」は何かと調査をしている。ご存じのように、日本の中小企業は同族経営が多く、その中でも多いのが「息子」だ。これはつまり、父が後を継がせる息子に、何を最も期待しているのかということだ。

 われわれ一般庶民の感覚では「経営の知識」「実務経験」などが重視され、古参の従業員とのコミュニケーション能力やリーダーシップも欠かせない。

 しかし、現実は違う。「一般的な経営に関する知識」を最も重視した社長はわずか3.3%、「経営に関する実務経験」も4.6%、「社内でのコミュニケーション能力(従業員からの信頼、リーダーシップ、統率力等)」もわずか9.2%だ。

 では、多くの社長は後継者(=息子)になにを望んでいるのか。断トツで多いのは「経営に対する意欲・覚悟」(24.0%)だ。要するに「気合い」や「根性」である。(参照リンク

 ビッグモーターも、店舗と従業員が多いだけで、会社の構造やガバナンスは家族経営の中小企業だ。だから当然、後継の息子に「気合い」や「根性」を求める。それがうかがえるのが、辞任会見で息子、宏一前副社長の働きぶりについて答えた、こんな言葉だ。

 「一生懸命確かにやって、なんとか会社業績を上げようと動いているのはよく分かってました。それが行き過ぎになったのか、結構、理詰めで話をしますんで、それがプレッシャーになったんだなと、今となっては感じておりますけれど」

 息子の経営者のスキルや実績などを評価することなく、「一生懸命」などという「意欲・覚悟」を重んじているのだ。

 息子というものは、父に認められたいものだ。だから、2代目社長は必死に「気合い」や「根性」を見せる。しかし、先ほども申し上げたように、人口減少時代に人口増時代のビジネスモデルを続けている限り、何をしても結果がでない。「気合い」や「根性」はやればやるほど空回りする。現場への叱咤激励は「パワハラ」に、そして、成長目標は「過剰なノルマ」に変わっていく。

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