さて、そこで不思議に思うのは、なぜ宏一前副社長は「ベタベタの恐怖政治」に走ってしまったのか、ということではないだろうか。
当たり前の話だが、「社長の息子」の全てが独裁者のようになるわけではない。社員たちと腹をわって話をして信頼関係を築き、ワンマン社長だった父の代よりも風通しのいい会社をつくる2代目もいる。また「無能」「世間知らず」など陰口を叩かれても、放っておけない癒されキャラがゆえ、周囲が支えてくれることで結果として、うまく会社をまとめている2代目社長だっている。
そんな中で、なぜ宏一前副社長は、ドラマやマンガに登場するような「父親の威光を笠に着て高圧的に社員をいびる怖い2代目」になってしまったのか。
「そんなもん、生まれついての個人の性格でしょ」と思うだろう。ただ、仕事柄これまで多くの「社長の息子」に会ってきた立場で言わせていただくと、「環境」というものも大きく影響をしている。
単刀直入に言ってしまうと「父と同じことをやっても、父と同じような結果がでない会社」でもがいている2代目は「恐怖政治」にのめり込みやすい。一体どういうことか分かっていただくのに、実はビッグモーターほど最適な例はない。
拙著『なぜ「ビッグモーター」で不正が起きたのか レオパレスや大東建託との共通点』の中で詳しく述べたが、1976年に山口県で個人商店として創業した同社がここまで大きく成長したのは、社長の経営手腕もさることながら、「人口増」の後押しがあったことは間違いない。
人口構成の多い第二次ベビーブーマーたちが成長するにつれて自動車需要も増して、中古車販売市場も拡大していった。だから「中古車を安く売る」という商売に真摯(しんし)に向き合えば、顧客は獲得できたので会社は自然に成長できた。
しかし、そこに暗雲が立ち込める。1995年に生産年齢人口がピークを迎えて減少に転じ、2008年にはついに総人口まで減少に転じていくのだ。人口が減っていくことは「消費者」が減っていくことなので薄利多売が難しい。つまり、これまでやってきた「中古車を安く売る」を真摯(しんし)に続けても結果がともなわなくなっていくのだ。
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