一般的には「多売」ができない中で利益を出すには、ひとつの「価値」をあげなくてはいけない。中古車ビジネスの場合、例えば、他社と一線を画するような「プレミアムな中古車」に舵(かじ)を切るとか、中古車を用いた独自のカーシェアリングや関連事業など、「新しい付加価値」で勝負をしていくのだ。
これをリーダーシップをもって進めなくてはいけなかったのが、2代目としていずれ会社を引き継ぐ宏一副社長だった。しかし、残念ながらそうしなかった。父のやってきた「中古車を安く売る」で利益を出し続けるために、「店を増やす」という人口減少時代にそぐわない前時代的な戦略を先鋭化させていってしまうのだ。
それがよく分かるのが、ビックモーターの店舗の新規オープン数だ。2010年には年間で2店、11年も2店と堅実に出店していたが、12年7月に宏一氏が入社をした途端に、その年にいきなり7店に増加。翌13年には17店、14年は25店、15年には37店と右肩上がりで出店攻勢が始まる。そして、16年にはなんと97店というすさまじい数をオープンさせるのだ。
しかし、店を増やせば成長できる時代は残念ながらとっくに終わってしまった。今の日本は毎年、鳥取県の人口と同じ数の消費者が消える国だ。店を出して成長できるのなら、ファミレスは店舗数を縮小させていないし、「いきなり!ステーキ」も苦境に陥っていない。
当然、全国のビックモーターも厳しい戦いを強いられる。ちょっとやそっとのがんばりでは「結果」はでない。しかし、この拡大戦略を進めた宏一前副社長としては何がなんでも「結果」を出さなくてはいけない。父のビジネスモデルを引き継いだのに、大コケしてしまったら「無能な2代目」の烙印(らくいん)を押されてしまうからだ。
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