とはいえ、大正製薬の怒りは収まらない。そこで裁判所に対して「社会常識に明らかに反する」と不満を爆発させるとともに、冒頭のようにサントリーウエルネスにまでバッサリと斬りつける「怒りのプレスリリース」となってしまったというワケだ。
あくまで一般的な話だが、この手の広告トラブルをわざわざリリースで公表することは少ない。しかも敗訴したとなればなおさらで、企業イメージが悪くなるからだ。
特にリポビタンDは現在、木村拓哉さんがCMキャラクターだが、ラグビー日本代表を応援しているほか、過去にはプロ野球の田中将大投手、プロゴルファーの松山英樹選手、プロバスケの八村塁選手をCMキャラクターに起用して、「アスリートを応援している」というイメージを訴求していた。
そんなブランドが、相手は広告代理店とはいえ、レジェンドアスリートの三浦選手と契約でもめているのだ。イメージが下がることはあっても、ブランド価値が上がることはまずない。
にもかかわらず、大正製薬はこの敗訴を自ら公表した。なぜかというと「このような事態が今後起こらないように」だという。リリースによれば、スポーツ選手や芸能人の広告に高額な契約金を支払うのは、競合の広告に出演しないという「業界の慣習」からであり、今回のような事態が許されてしまうと、それが揺るがされて、高額な出演料を払うことも難しくなるという。
つまり、広告ビジネスの秩序と尊厳を守るため、あえてこの自社にとってなんのメリットもない「敗訴」を世間に知らしめたというのである。
業界の行く末を案じる献身ぶりに胸に熱いものが込み上げたという人もいらっしゃるかもしれないが、残念ながらこの「怒りのリリース」はそれほど世間の人々の心に響いていない。
ネットやSNSでも「まあ怒る気持ちは分かるけれど、契約書にないならしょうがない」という意見がかなり多く見られる。もちろん、「カズさん側もサントリーウエルネスを側もちょっとやり方がよくない」という指摘も少なくないが、ハットトリック社やサントリーウエルネスに対して「業界のルールを破る悪徳企業」とバッシングするようなムードはない。
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