大正製薬がサントリーを痛烈批判! 「業界の慣習を守れ」リリースは、なぜ世間に響かないのかスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2023年08月08日 11時07分 公開
[窪田順生ITmedia]

社内論理が通じない

 そう聞くと、「ええ! じゃあカズの広告契約に錠剤なんて言葉もあるわけがないから、大正製薬のリポビタンDXがリポビタンシリーズの一環なんて主張は無理筋ってことか」と感じる人もいらっしゃるだろうが、そういうわけでもない。

 大正製薬の社内論理では、この錠剤タイプもれっきとしたリポビタンシリーズなのだ。当時のリリースにはこうある。

 『「リポビタンDX」は、「リポビタン」ブランドの第一号製品である「リポビタン(錠剤)」以来の、約40年振りとなる錠剤タイプの疲労回復・栄養補給を目的としたビタミン剤です』

 われわれは「リポビタン」と聞くと、当たり前のように栄養ドリンク剤をイメージするが、実は大正製薬の社内的には「錠剤と栄養ドリンク」というのが常識だ。もともとは1960年2月に発売したリポビタン(錠剤)こそがブランドの発祥だからだ。この3カ月後に、リポビタンDの原型となる「リポビタン液」を発売、そして翌年にリポビタンDが発売という流れなのだ。

 つまり、大正製薬からすればリポビタンDと契約していたということは、リポビタンシリーズと契約をしていたことでもある。契約書に「錠剤」という文言がなくても当然、錠剤も契約対象に含まれるというロジックなのだ。

(提供:ゲッティイメージズ)

 だが、そう言われてもわれわれ一般庶民はピンとこないだろう。そして、おそらく三浦選手の広告契約をしていた広告代理店側も理解をしていなかったに違いない。

 三浦選手側の認識では、広告に起用されているのはあくまでリポビタンDという栄養ドリンクであって、20年に発売された錠剤は全く別物だ。それをいきなり「リポビタンシリーズだ」と主張されても、後出しジャンケンのように感じただろう。このニュースを耳にした人々の多くも、そう感じたはずだ。だから、セサミンEXの広告契約を結んだのだ。

 残念ながら社内論理というのは、外の世界には理解できないものだ。だから、多くの人は「20年に発売された新商品なんだから、カズ側と新しく契約を結ばないと」という反応になってしまうのだ。

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