大正製薬がサントリーを痛烈批判! 「業界の慣習を守れ」リリースは、なぜ世間に響かないのかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2023年08月08日 11時07分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「嵐」の前ぶれなのかも

 さて、こういう話を聞くと、サントリーの健康食品のCMに出演した三浦選手に対して、大正製薬が訴訟を起こすほど強い怒りを表明している理由もなんとなく見えてくるだろう。

 実は三浦選手がリポビタンDに起用された16年というのは、昭和から長く続いていた「マッチョ系俳優が『ファイト一発』と叫んでピンチを脱出」という定番スタイルから脱却して、新たな成長へと結びつけようとしていたときだ。

 三浦選手のキャラクター起用にはそんな大きな期待が寄せられたが、『大正薬HDの4〜6月期、純利益45%減 「リポビタン」低迷』(日本経済新聞 20年8月5日)となかなか望むような結果が出ないでいた。

 そこに起死回生の切り札として投入されたのが、20年10月に発売されたリポビタンDXだ。大正製薬としてはその広告に三浦選手を起用して、勢いをつけようと考えるのは当然だ。が、代理店からは契約書に「錠剤」がないからと拒絶されてしまう。

 しかも、これからサプリメント市場で追いかけなくてはいけないトップ企業サントリーのセサミンEXの広告に出演するというのだ。経営の舵(かじ)をとっている上原一族からすれば、こんな屈辱はない。こういう背景まで理解すれば、大正製薬側の主張に一定の理解を示すビジネスパーソンも多いはずだ。

 ただ、これはなかなか一般庶民は共感しづらい。トップの意向が色濃くあらわれたリリースを見ると「ああ、大企業だけど、やっぱりこういうのは創業者一族の匙(さじ)加減なんだな」というワンマン的な印象を抱いて、あまり感情移入できない。これこそが、「業界の慣習を守れ」という警鐘を鳴らしたリリースが、思いのほか庶民に響いていない理由のひとつではないか、と個人的には思う。

 いずれにせよ、かつて吉田氏が幾度となく批判していたサントリーのビジネス手法を、大正製薬まで批判し始めたのは興味深い。

 ビッグモーターが分かりやすいが、その業界のトップ企業がルールを守らないと批判されたり、ビジネス手法に問題があると告発されたりといったときは、その業界全体に何かしらの構造的な問題が発生していると考えられるからだ。

 健康食品業界トップへの不満がこのような形であらわれてきたことは、これからやって来る「嵐」の前ぶれなのかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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