では、大正製薬の捨て身の「問題提起」は、なぜ世間の人々の心に響かないのか。いろいろなご意見があるだろうが、筆者は主に以下の3つのポイントが大きいと思っている。
(1)「三浦選手=リポビタンD」のイメージが強くない
(2)「リポビタンシリーズ」という「社内論理」にピンとこない
(3)「ワンマン経営」の印象のほうが強くなって主張がかすんだ
まず(1)に関してだが、このニュースが配信されてから多くの人が「カズにリポDのイメージがなかった」と驚いている人もいるように、16年からリポビタンDに起用され続けているわりには、「リポDの顔」というほどイメージキャラクターとして社会に定着していたとは言い難い。現在、リポビタンDXの広告に出演している俳優のケイン・コスギさんのほうが「ファイト一発感」がある。
むしろ、三浦選手の若いころの活躍をリアルタイムで見て、「まだ現役なんてスゴい」とリスペクトしている40〜50代からすれば、90年代に出演していたサントリーの飲料水「デカビタC」のイメージが強いだろう。
もしリポビタンDに関しても、このデカビタCほどキャラクターイメージが定着していれば「これまで散々お世話になってきたのに、競合のCMに出演するなんて恩知らずだ」という批判がもうちょっと盛り上がった。つまり、大正製薬が世に訴えたかった「業界の慣習を揺るがす非常識な行為」という糾弾メッセージも今以上に共感を得ていただろう。
次に(2)の『「リポビタンシリーズ」という「社内論理」にピンとこない』を説明しよう。実はこれは今回のトラブルの本質的な部分だ。
大正製薬の主張を見ると、トラブルの発端となっている錠剤リポビタンDXは、リポビタンシリーズの一環であり、三浦選手はリポビタンシリーズと契約をしているので当然、リポビタンDXの広告にも出演するべきだという。
ただ、これはかなり微妙な話だ。三浦選手がリポビタンDに出演するために広告契約を結んだ16年、まだこの錠剤は世に存在しなかったからだ。リポビタンDXは、20年10月1日に発売されたのだ。
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