実はこれまでイオングループでは、各事業会社が自分たちでアプリやポイントサービスを運用し、それぞれが顧客情報を取得して管理していた。その数は少なくとも90以上に上るという。そんな風に分散された顧客IDと購入履歴データなどをグループ内で整理・統合している。そのプラットフォームが、iAEONというわけだ。
さて、そこで想像していただきたい。このような膨大な情報の集約という巨大プロジェクトを、グループをあげて推進している最中に、その戦略の柱であるiAEONの競合であるPayPayに対して、どんな感情を抱くだろうか。
使ってほしくない。そう思うのは当然だろう。せっかくiAEONへと誘導しようとしているのに「使いやすいからPayPayでいいや」となってしまったら、顧客情報も集約できない。「シームレスな買い物体験」もへったくれもない。デジタル戦略がガラガラと音を立てて崩壊してしまうのだ。
とはいえ、露骨に「PayPay使えません、ウチはWAONとAEON Payだけです」なんてうたうと、「じゃあ、近くのライフに行くか」という客もいる。というわけで、客は取りこぼしたくない。しかし、あまり積極的にPayPayを使わせたくない。ならば、残る道は「使いにくくさせる」しかないではないか。
「いやいや、いくらiAEONを普及させたいからって、現場のレジ担当者に重い負担をかけてまでそんなことをしないだろ」という意見もあるだろう。ただ「戦略のために現場が犠牲になる」のは、筆者からすればイオンに限らず、典型的な日本企業の方法論だ。
筆者のコラム『なぜ「ビッグモーター」で不正が起きたのか レオパレスや大東建託との共通点』の中でも少し触れたが、日本企業のマネジメントのルーツは日本軍にある。戦後の日本企業のプロトタイプをつくったのは、戦時中に「産業戦士」と呼ばれた、軍隊式のマネジメントを受けた人々だからだ。
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