では、日本企業のルーツである軍隊には、どんな問題点があったのか。軍事のプロたちがよく指摘するのは「戦略を重視して、兵站(へいたん)を軽視する」ということだ。
日本の戦略は大本営のエリートたちが「こうすれば勝てる」「ここを守れば反転攻勢の機会がある」なんて感じで、頭の中で理屈をこねて組み立てた。そして、その戦略を現場は文句を言わずに実行に移すことが求められた。失敗したら生きて戻るな、ということで日本軍では「玉砕」という世界的に見てもかなり異常な軍事命令が下された。それほど「戦略」は重視されたのだ。
一方、軽視された兵站とは何かというと、補給・輸送・管理という3つの要素から成立つ総合的な軍事業務のことで、戦闘地帯へ後方から必要な食料や物資などを配置するといった活動全般を指す。ちなみに、ビジネスの現場でよく使われる「ロジスティクス」も元々は「兵站(logistics)」という軍事用語を転用したものだ。
日本の軍隊がロジスティックスを軽視していたのは、世界中の軍事研究家が認める事実だ。軽視したのではなく、米国軍に補給船を破壊されたからだと言い訳をする人も多いが、そもそも兵站にさかれるリソースが不足していた。兵器を運ぶことや弾丸を輸送することばかりに力を入れて、食糧や物資はおざなりにされた。
太平洋戦争で日本軍の死者は軍人・軍属を合わせて約230万人にのぼったが、実は戦闘で亡くなった人は半分ほどで、残りは病死と餓死だということが、戦史研究で明らかになっている。これは「兵站軽視」で進軍地域を広げるという「無謀な拡大戦略」のツケだ。
そして、この「戦略重視、兵站軽視」は日本軍をルーツに持つ日本企業にもちゃんと受け継がれている。分かりやすい例が、ビッグモーターだ。前社長や副社長がLINEで通達する「数値目標」という戦略は、現場は絶対に死守しないといけない。しかし、“ニンジン”として高い給与は与えられても、戦略を実行に移すだけのロジスティックスは与えられない。
すると、兵站を打ち切られた現場はどうなるか。精神論にのめり込んで心身を壊したり、自腹営業をしたりという玉砕に走るか、戦略を実行するために「不正」に手を染めていくしかない。拡大戦略でブラック労働と不正が横行したビッグモーターは、兵站無視でアジア全土に支配地域を広げた結果、膨大な餓死者と、捕虜や住民を殺害した戦犯を生んでしまった帝国陸軍と瓜二つだ。
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