リテール大革命

物流「2024年問題」がもたらす2つの“物価暴騰”シナリオ消費者側のリスクは(2/2 ページ)

» 2023年08月25日 12時33分 公開
[古田拓也ITmedia]
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2024年問題が消費者にもたらす影響

 これらの要因により、運送料金は10%から20%程度上昇する可能性が考えられる。広範な品目が再度の値上げ対象となる可能性がある。商品の価格が変わらなくても送料無料サービスが廃止されたり、商品の内容量や品質が低下する「実質値上げ」という形で消費者へ転嫁されていく可能性もある。

 帝国データバンクの「企業の価格転嫁の動向アンケート」調査の最新データによれば、22年9月時点の価格転嫁率が36.6%であることが分かった。これは、企業のコスト分のうち、どれだけの比率が商品価格へ転嫁されるかという指標である。

 36.6%ということは、100円のコスト増に対して36.6円を商品価格に転嫁することを示す。効率化ではさばききれないコストの増加分が、決して小さくない割合で価格に転嫁されていることが分かるだろう。

企業の価格転嫁の同行(出所:帝国データバンク)

 仮に2024年問題の影響で運送料金が20%ほど上昇したと仮定すると、その値上がり幅の33.6%、つまり値上がり幅の7%相当が価格へ転嫁されることも視野に入れておきたい。

 荷物のロットが大きい大型店舗ほど1商品当たりの価格転嫁幅が小さく、荷物のロットが小さいコンビニなどの小型店舗やネット通販ほど運賃値上がりの影響を強く受ける可能性もある。従って、今後はコンビニとスーパーの間で価格差が拡大していったり、ネット通販と実店舗との比較で、実店舗の方がリーズナブルに買い物できる場面も増える可能性がある。

 先述した帝国データバンクの調査が、まだ多くの企業が大幅な値上げに踏み切れていない22年初頭までの調査結果に基づくことを考えると、さまざまな企業が製品価格の値上げを決めた23年の価格転嫁率は、同調査よりも一層上振れする可能性もあるため注意しておきたい。

 また、個人向け宅配サービスにおいては、運賃の値上げだけにとどまらず、都市部での同日・翌日配送サービスや夜間・休日配送、再配達などの無料サービスについて有料化が検討されたり、サービスそのものが廃止となったりするという影響も懸念される。

 経済産業省・国土交通省・農林水産省がまとめた「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、宅配便の取り扱い実績は21年時点で50億個近くまで増加している。

宅配便の取り扱い実績と再配達率の推移(出所:経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」)

 その一方で、再配達率についてはコロナ禍に伴って在宅時間が増加し、再配達率は低下している。今後、出社して働く世帯が増加していくことを踏まえると、再配達率はコロナ禍前並みの15%台に戻っていく可能性があるといえる。

 物流分野における労働力不足が懸念される中、再配達の無料サービスを継続すれば、「配達予定時刻に受け取れなくても良い」というモラルハザードを生み出す恐れがある。2024年問題で一層の効率化が求められる運送業者は、いよいよ再配達の有料化なども視野にいれ、より公平なサービス体制に移行していくかもしれない。

 運送業界の2024年問題を乗り切る鍵としては「人手不足問題の解決」と「物流の効率化」に大別される。この2つのテーマは、今後の宅配業界の持続可能な発展のためには避けて通れない課題だろう。

 企業にとっても、無駄な梱包スペースや商品形状の見直しなど、上昇が見込まれる運賃への対策や、運送コストの上昇分をどれだけ商品価格に転嫁できるかについて今のうちからシミュレーションしておいた方がよさそうだ。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手掛ける。Twitterはこちら


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