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コロナ禍がもたらしたインフレとサプライチェーンの逼迫(ひっぱく)は終わりが見えない。米国や中国など一部の国では、コロナ禍に対する制限緩和と金融引き締めによって、物価上昇のペースが緩やかになってきた。しかし日本では依然として金融緩和は継続しており、消費者物価指数も上り基調だ。実際にスーパーや外食産業などを中心に幅広い品目で値上げが発生している。
そんな日本は、2024年に広範な品目における物価高騰が危惧されるイベントがある。トラック運転手の働き方を改善するため、労働時間が制限されることで起きる、いわゆる「2024年問題」だ。
物流業界では、トラック運転手の過酷な運送スケジュールによる労働環境の悪化や交通事故、過労死といった社会問題を背景に、国策としてトラック運転手の働き方にメスが入ることになった。トラック運転手の労働時間制限の要点は、大きく分けて以下の4点となる。
1. 連続運転時間は、4時間を超えてはならない。
2. 休憩時間は、連続運転4時間の間に各10分以上で合計30分以上取得すること。
3. 1日の総労働時間は、原則13時間以内で、上限は16時間。
4. トラック運転手の残業時間の上限が年間960時間に制限される。
この制限はトラック運転手の健康を守るとともに、業界全体の労働環境の向上と生産性の向上を目的としているという点で、歓迎すべき政策である。しかし、トラック運転手の労働時間が制限されると、日本のさまざまな産業に大きな影響が出ることが予想される。
通常、「働き方改革」といえば労働時間を短くすると同時に、生産性を高めることを想像するだろう。しかしトラック運転手が生産性を高めるには、スピードを上げるしかないのが現状だ。だがトラック運転手にとって、労働時間が短くなったからといって時速200キロメートルでトラックを運転することは不可能だ。
つまり運送業者側にとっては、これまでよりも短い間隔で物流拠点を用意し、ドライバーの数を増員しなければならないことになる。物流センターや倉庫の効率的な配置や運用が一層重要となる一方で、トータルで見た生産性は以前よりも低下する見込みとなるのだ。
運送業界における生産性の低下とは、同じ期間で配送できる荷物の総量が減るということ。運送業者側はその分だけ運賃を値上げしなければならなくなるだろう。
もちろん物流の効率的な運営のため、AIやロボティクス技術といった最新技術の導入が進められていることも確かだ。しかし運転については、ドローンや自動運転トラックの活用も視野に入りつつあるが、実用化までには相当の時間を要する見込みだ。
結論として、やはり2024年問題に端を発する運送コストの上昇を、生産性の向上というコスト面の圧縮だけで乗り切ることは難しく、運送価格の高まりは運賃へ転嫁され、最終的には消費者の購入する商品価格へ転嫁されていくことになるだろう。
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