なぜ「AFURI」は炎上したのか 商標権めぐる主張で重ねた「悪手」本田雅一の時事想々(4/5 ページ)

» 2023年08月29日 09時40分 公開
[本田雅一ITmedia]

「権利行使の正当性」の主張のはずが……

 繰り返しになるが、SNSでの反応は法的な権利関係の正しさとはほとんど相関性がない。AFURIに対するSNSでの反応を見ると「法的には」あるいは「ビジネス的には」正しい権利行使だとしても、AFURIを支持する気持ちにはなれないとする意見が少なくない(もちろん正しい権利行使と支持する声もある)。

 前述した吉川醸造のニュースリリースからの抜粋で「AFURIは製品の全量廃棄を求めている」と訴えていたが、それに対してAFURIは日本酒へのAFURI使用の中止であり、在庫の販売は認めていると発表していた。

 ところが中村氏は、前述のYouTube動画で「個人的にはすでに作ってる商品はそのまま販売していいと伝えたが、訴訟戦略上は必要というので全量廃棄を求める訴状を承認した」と、完全に矛盾する発信をしてしまっている。これでは「廃棄は不要だと伝えているので過剰な反応だ」という主張は通らない。

 また、吉川醸造は阿夫利神社の神職からラベルの揮毫をいただき、「阿夫利」銘を施設名やサービス名などで共有するという、地域コミュニティーに気持ちを寄せた書き方をしている。これに対し、AFURIも阿夫利という言葉や伊勢原市をはじめとする地域とのつながりを重視している、心を寄せているのだと訴求している。

 実際、その言葉通りの気持ちなのかどうかは判断する立場にないが、ここでも「心を寄せる気持ち」の深さで世論を味方につけたい意図が強く見えてしまう。

 さらに創業者として「AFURI」というブランドを育ててきた自負があって、自らの言葉で正当性を主張したい気持ちもあるのだろう。前述の動画では「カツアゲされて、カツアゲされている方が悪いといわれている」と発言してしまった。

 こうした行為の一つ一つが、本来の訴訟目的であった「商標権の権利行使に関する正当性」からの乖離(かいり)を招き、ブランドに思いをはせる気持ちへと焦点を変える原因になっているように見える。

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