商標権を侵害しているとして、AFURIが吉川醸造に文書で申し入れたのは22年8月22日のことだが、その後の交渉が不調であったことは、AFURIが清酒での「AFURI」商標を23年3月6日に再出願していることからも分かる。
というのも、AFURIは20年4月に清酒での商標を登録していたものの、その間に(同社の説明によると、コロナ禍によるプロジェクトの中断で)製品化が進んでおらず、3年経過して商標権を失いそうだったためだ。交渉を行いながらも、不使用取り消し審判を請求される前に権利を延長する意図が読み取れる。
その一方、吉川醸造はローマ字読みを含む「雨降(AFURI)」を23年3月14日に出願している。出願はAFURIよりも一歩遅かったものの、AFURIの清酒における商標権に不使用取り消し審判を求められるタイミングを見計らっての行動だったのかもしれない。
こうした背景が明らかになるにつれ、農水省が設ける商標登録ではなく「地理的表示(GI)保護制度」を活用できなかったのか? という声も出ている。
しかし地名をブランド化するためのGI保護制度は、地域の特産品を念頭にしたものだ。今回のようなケースで丹沢大山水系に関連するビジネスを展開する関係者を、一様に納得させることは難しいのではないだろうか。
今回のケースは、地域に根ざした地名、あるいは歴史的に伝えられる言葉をブランドとして展開する際の難しさを浮き彫りにしている。ビジネスとしてはまっとうなやり方であったとしても、同じ地域の企業との軋轢(あつれき)を生む可能性は否定できない。日本酒というジャンルだけにとどまらない可能性も(地元企業は)抱くだろう。それはAFURIとしても望むところではないのではないか。
いずれにしても、経緯を振り返ってみると「たとえ不本意な炎上であっても、私情を全面に押し出した反論をSNSなどでは発信すべきではない」という、炎上対応の基本が大切であることを、あらためて知らしめたといえるだろう。
権利を主張するために法的な正しさは必要だが、SNSでは同時に自らが「誠実に見えること」も重要である。好意的に受け取ってもらえないようでは、せっかくの権利も価値が減じてしまう。知財戦略では後手に回った吉川醸造だが、SNSで「自らを誠実に見てもらう」という点において、大きくAFURIを上回ったことは間違いないだろう。
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