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東北大が三井住友信託と仕掛けた産学のゲームチェンジ オープンイノベーションの狙い東北大学の挑戦(2/2 ページ)

» 2023年08月31日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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理念の第一に掲げた「東北大学のゲームチェンジ」

 続けて、THCIの石川健社長が事業内容を説明した。THCIの会社設立は23年4月28日で、創業して3カ月あまりがたった。出資金は1億円で、東北大学が85.1%、三井住友信託銀行が14.9%を占める。常勤の役員は3人おり、全員が民間出身という特徴を持つ。

 石川社長は東大工学部を1987年卒業後、同年に三菱総研に入社。2018年に退社し、同年から東北大のオープンイノベーション戦略機構の特任教授を務めていた。そして特任教授から大学のオープンイノベーションを担う企業の代表へ異動した形だ。

 THCI設立の経緯について、石川社長はこう話す。

 「4年半ほど前に、大学と産業界の未来に携わりたい思いで大学の世界に飛び込みました。そこで大学の先生方の活動の実態も知りつつ、民間出身者として今回この会社を設立するところに携わってきました」

 THCIの特徴として、理念の第一に掲げているのが「東北大学のゲームチェンジを後押しする」だ。

 「大学のゲームチェンジをしているんだという決意が、東北大学の総長、理事にあります。『大学の知』の重要性や必要性はみんな認識しているのですが、それを具体的な価値に変えていく、経済価値を生み出し事業を創造していく力が足りない課題認識があります。この部分をわれわれが実現していきます」(石川社長)

THCI石川健社長

 企業スローガンに「大学と大海をつなぐ、森になる」を掲げていて、まさしくオープンイノベーションを目標に掲げている。

 具体的な事業内容としては、東北大が進める産学連携の共同研究や、スタートアップ創出を後押しするだけでなく、事業化や金融の投資拡大、科学技術の社会実装といったところまで進めていく。大学の外に身を置くことで、大学や企業、投資する金融機関や国、自治体との結節点としての役割を果たす。その思いが、「共創イニシアティブ」という企業名にも現れている。

 既存のコンサルティング企業との違いについて、石川社長はこう説明する。

 「ビジネスを開発するだけだと、民間のコンサルティング会社で皆さんがやられていることだと思います。THCIではそれだけでなく、企業や産業界、大学研究機関、金融界、そして国・行政の4つを束ねて共創していきます。ここでわれわれが力を発揮したいと思っています。当社はイノベーションをビジネス思考で先導する共創プラットフォームであるという言い方をしています」

 そしてこの役割を果たすために、THCIではビジネスプロデューサーがさまざまなコンサルや協業をチームで実行する形を採っている。実行体制にあたっては、ビジネスプロデューサーが中心となり、地域企業やベンチャー企業を含めたパートナー企業、専門家、大学研究機関、金融機関の4者とアライアンスチームをプロジェクトごとに作り、これを回していく。

 そしてこのプロジェクトごとのアライアンスチームをもとに、THCIがコンサルや協業をプロデュースしていく。そこからコンサル遂行や協業編成運営といった事業開発、実践プログラムの企画運営といった人財育成、研究成果の具体的応用の企画といったサイエンス活用につなげていく狙いだ。

 THCIでは、今後デジタル人財育成や商品やビジネスに対するサイエンス活用、技術を活用した新事業創出支援など多様な活用シーンに対応したチーム作りを想定している。東北大学のゲームチェンジとオープンイノベーションが今後どのように変わっていくか。そして大学業界にどのようなインパクトを与えていくのか注目の取り組みといえるだろう。

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