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東北大が三井住友信託と仕掛けた産学のゲームチェンジ オープンイノベーションの狙い東北大学の挑戦(1/2 ページ)

» 2023年08月31日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 東北大学が産学連携を進めている。4月には、東北大と三井住友信託銀行が共同で出資し「東北大学共創イニシアティブ株式会社(THCI)」を設立。国立大学と金融機関が共同で出資してできた企業は国内初だという。

 大学研究機関と金融機関が連携することによって資金・人財・知財を効果的に循環させ、新規事業やイノベーションの創出を通じた社会課題解決への貢献を目指すのが狙いだ。8月8日には都内で設立発表会を開き、東北大学の大野英男総長、三井住友トラスト・ホールディングスの高倉透社長、THCIの石川健社長の三氏が登壇。三者それぞれの取り組みと狙いを語った。

東北大学が産学連携を進めている

 発表会では、まず東北大の大野総長が登壇した。もともと東北大学は、実学重視の大学として知られる。1907年に日本で3番目の国立大学として開学して以来、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の3つの理念を掲げている。この学風からか、特に工学部が学生数、学科数共に他学部を圧倒しており、光ファイバー通信やフラッシュメモリをはじめ、われわれの生活の基盤となる多様な発明品を生み出している。

東北大学の大野英男総長

世界大学ランキング日本版で4年連続1位 産学連携の狙いは?

 東北大は開学から6年後の13年に日本で初めて女子学生を受け入れた大学でもある。またそれ以前の前身校以来、中国近代文学の祖となった魯迅をはじめ多くの留学生や専門学生や師範学生(一般的に戦前の帝国大学は旧制高校卒業が条件であった)を受け入れている。東北大は魯迅が学んだ地として、98年11月には中国の江沢民国家主席(当時)が国賓として片平キャンパスを訪れた。

 このようなダイバーシティーの確立を東北大は100年以上前から行っていて、先進的な大学であり続けている。こうした姿勢は国際機関でも評価されていて、英国の日刊紙「タイムズ」が発行する「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」の世界大学ランキング日本版で東北大は「国際性」が高く評価され、東京大学を差し置いて4年連続の1位に輝いている。

 こうした歴史からも、大野総長は以下のように話す。

 「研究と教育を両輪として、そして多様性を力に、社会価値を創造していきます。今後も守備範囲を広げた成長する公共財として『教育』『研究』『社会との連携』の境界を越えて共創し、SDGs、カーボンニュートラルなど、人類社会共通の課題に挑む総合研究大学として、社会とともに歩んでいきます」

 実学重視と多様性の確保を今後もしていく上で、欠かせないのが産学連携だ。大野総長はこう説明する。

 「東北大学の産学連携はこれまで着実に実績を積み重ねてきました。過去5年間で産学連携のアクティビティーを測りますと、年率約13%の成長をしています。アカデミアとしての人財と研究力にビジネスの人財と事業力を合わせることで、さらなる価値創造していきたいと考えています」

 この産学連携を支援するのが、THCIだ。THCIがイノベーション支援の中核を担うことで、研究の事業化やDXの加速、共同事業の創出やスタートアップ・金融機関との連携、そしてこれらを連帯させる人財の育成を促していく。これによって、ビジネスの創出と成長につながるとしている。

 「継続的な社会インパクトの創出を続けていく上で、こうした支援の仕組みをなくしてわれわれのさらなる社会への貢献は難しいと考えました。そしてこの支援機能を担うのがTHCIです。THCIは大学の事業戦略についても大きな役割を果たすと考えています」(大野総長)

 続けて、三井住友トラスト・ホールディングスの高倉社長が、産学連携の背景について発表した。高倉社長は話す。

 「現在人類にはさまざまな社会課題があります。例えば2050年までのカーボンニュートラルを目指していく上でも、グリーントランスフォーメーション技術の革新的な進歩が不可欠です。米国では政府が主導し、先端分野の研究、アカデミアに対する支援をしています。グローバルでも技術を活用し、イノベーションを起こしながら社会課題をどう解決していくかが国際競争力を左右する時代になっていまして、各国の基本戦略になってきています」

三井住友トラスト・ホールディングスの高倉透社長

 こうした中、日本でも国際競争力を高めるためにも、産業・大学研究機関・政府の密な連携と長期的に安定した資金供給が欠かせない。三井住友トラスト・ホールディングスでは、三井住友信託銀行が中心となって培ってきた企業や投資家との接点を強みとしている。企業と大学研究機関との橋渡しを担うことで、企業に対しては技術の社会実装、大学研究機関に対しては社会課題解決や投資促進につなげていく。

 「ただし、当グループ単独での貢献には限界もあります。当グループと思いを共有する機関投資家と連携協働をしてより大きな価値を作り出していきます。持続可能な仕組み作りには民間による投資が必要ですが、リスクに見合うリターンがなければ投資金は集まりません。また、海外からの投資頼みでは地域に恩恵がもたらされるとは限りません。投資の好循環を生み出すためにも当グループ自身がリスクテイクをし、呼び水となってリターンのある投資機会を提供していきます」(高倉社長)

 この取り組みは三井住友トラスト・ホールディングスのパーパス(存在意義)にも合致するとしている。同社は「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」とのパーパスを掲げている。

 三井住友トラスト・ホールディングスは、前身となる三井信託が1924年に設立。22年制定の信託業法に基づく日本初の信託会社であり、2024年には創業100年を迎える。

 「当グループならではの信託の力をかけ合わせ、さまざまなソリューションの提供を通じて、日本の次世代に豊かさをつなげていきます。この取り組みは、関係者と強固に連携していくことで実現できるもの。東北大学をはじめとする大学、事業法人、自治体とも連携しながら積極的に取り組んでいきます」(高倉社長)

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