GEO、たった2年で「時価総額が倍増」 店舗数は減ったのに、なぜ?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年09月01日 13時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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ゲオホールディングス、3つの勝因

 ゲオホールディングスの事例から、ピボットが成功するために必要な3つの要素をひも解いていこう。

 ピボットを行うためにまず重要なのが、市場環境の変化の認識である。ゲオホールディングスは、上述の通りデジタル化の波と消費者の行動の変化を速やかに捉えることで、新たな市場機会を探求する必要に迫られた。

 次に、柔軟な事業構築の発想も求められる。ピボットに失敗する多くの企業は、既存事業やこれまでの慣習などに縛られて視野狭窄に陥ってしまう。しかし、同社は「レンタル」に固執せずリユース品を中心に据えることで新しい顧客層を獲得した。

 仮にGEOブランドの中でリユース品を取り扱ったとしても、新たな顧客層は望めない。新ブランドを作ることで若年層やファミリーといった顧客層を取り込み、若返りの実現に成功したのだ。

 そして、ピボットを成功させる最後の要素が、既存ビジネスの知見を応用できるかという点だろう。単純に市場が伸びているだけで知見もない事業分野に進出してしまうと、大怪我をしてしまう可能性がある。しかし、ゲオの事例では、過去の実店舗型の事業で蓄積された経営管理やコスト削減ノウハウなどを新しい事業モデルに応用することができたからこそ、既存ライバルとも十分に渡り合える競争力を確保することに成功したのだ。

 ゲオホールディングスは、日本を代表するレンタルショップチェーンとして抜群の知名度を誇りながら、その事業領域に執着せず「物価高・増税に伴う生活防衛」という社会テーマを追い風にリユースビジネス主体へピボットし、生まれ変わった。

 時価総額が500億円から2年足らずで1000億円にまで倍増したのも、市場が同社の生まれ変わりを高く評価しているからだろう。

photo GEO(同社公式Webサイトより)

進化を続けてきたゲオ

 そもそも同社は、レンタルビジネスを主体としていた頃から細かなピボットを成功させてきた。時代の変化と消費者のニーズ変遷を捉えるのがうまいという特徴がある。

 同社は1980年代から2000年代初頭にかけて、映像と音楽のレンタルを中心とするGEOのビジネスモデルを展開する一方で、新作映画や音楽のリリース時には関連作品を宣伝するなど、店舗でのレンタル機会を増やす工夫を行っていた。

 そして、家庭向けのゲーム機器が市場シェアを高めてきた2000年代以降は、ゲームの取り扱いにも力を入れており、特に家庭用ゲーム機の普及に伴い、新作ゲームや中古ゲームの販売も主要な収益源となっていた。その後もCDの市場が縮小していくにつれて、店舗ではコミックのレンタル面積を拡大させるなど、細かく分析していくとGEOは小さなピボットを繰り返してきた様子がうかがえる。

 しかし、デジタル化の進行と共に、GEOの取り扱う物理メディア全般の需要が減少したことで同社はオンラインとオフラインのオムニチャネルを展開し、顧客との接点を増やす戦略を取り始めた。

 GEOは消費者のライフスタイルの変化に合わせ、実店舗主体である従来のレンタル事業から、オンラインショップを含めた新しいサービスへとシフトしている。そして、同社は現在、セカンドストリートの成功をドメスティックなもので終わらせぬよう、北米やマレーシアのような海外市場にも店舗展開を推し進め、円安下での外貨建て収益確保にも抜かりがない。

 このようにゲオホールディングスは、時代の変化と消費者ニーズの変動に柔軟に対応するだけでなく、その変化に最も効果的な事業領域へビジネスモデルを進化させていく特性があるといえるだろう。今こそ陳腐にも見える物理メディア中心のレンタルビジネスも、当初は時代の最先端をいくモデルであった。そのように考えると、ゲオが時代の変化に取り残されずにビジネスモデルを変遷できることは、ある意味当然であったといえるのかもしれない。

 進化論で有名なダーウィンの残した言葉に示唆の富むものがある。それは「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るわけでもない。唯一生き残るのは、変化する者である」というものだ。ゲオは本稿で紹介したリユースビジネス以外にも、ガチャガチャ専門店の「カプセル薬局」や大手Vtuberグループの「あおぎり高校」なども手がけており、新たな事業領域の模索にも事欠かない。今後も同社の進化が期待される。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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