活用事例は「研修メニューの作成」にとどまらない。
ChatGPTを使うことで職員の業務負担を大きく減らしたのが、講演会などでスクリーンに投影する資料の作成だ。
DXの先進自治体として知られる神戸市は、外部の事業者などからDXの取り組みについての講演依頼を受けることが多いという。
こうした講演に職員が登壇する際、担当職員はパワーポイントで資料を作成するとともに、説明時に読み上げる文章を一から話し言葉で書き上げる必要がある。二重の作業であり「とても負担が大きい」(箱丸さん)という。
今回、箱丸さんは、スライドに載せたキーワードを箇条書きにし「これらのキーワードを使って読み上げの原稿にしてください」とChatGPTに依頼。すると、ものの数秒で説明文が作成された。従来の仕事が半減した形だ。
「文章のニュアンスが想定と違うこともあるため調整は必要だが、一から作るよりはるかに楽」だと箱丸さんは話す。
箱丸さんは7月に開催された神戸市のDX事例を紹介する講演会で、実際にこの手法を用いて登壇資料を作成したという。
神戸市は庁内でのChatGPT試行利用を進めるにあたり、全国の自治体に先駆けて生成AIの利用に関する条例を制定。職員向けのガイドラインも策定し、ルール作りを用意周到に進めた。
神戸市はもともと、市の情報資産に関するセキュリティ対策の基本的な考え方を示した「神戸市情報セキュリティポリシー」を策定していたため、必ずしも生成AIを活用する上で、条例などで明文化する必要はなかったという。
しかし、市民の不安感を払拭するためにも、ルールを作り、市民に知ってもらうことが必要――という市長の判断で、条例制定を進めた。
さらに、生成AI利用時に、職員が順守すべき事項を解説したガイドラインも策定。過去に市のデジタル関連施策でアドバイスを受けた、AIに詳しい弁護士の協力を得ながら策定を進めた。
ガイドラインには、例えばこんな一文がある。
「生成AIは、追悼文など受け取る方の感情に寄り添う必要がある文章にそのまま用いることはしないこと」
追悼文のように気持ちを伝える文章と、市の取り組みを紹介するような情報を伝える文章とでは、同じ文章でも意味合いが大きく異なる。「文章の性質に応じて、ChatGPTを使うべきかどうか、きちんと分けた方がいいと考えた」とデジタル戦略部の元村優介さんは話す。
追悼文のほか、議会答弁に用いる文章なども、生成AIを利用しないとの方針を掲げている。「議会は市民に対して市の政策を説明する場。議会答弁で生成AIが作った文章をそのまま使うと、市の誠意としてどうなのかという問題がある」(元村さん)
一方で、議会答弁の参考となる資料作りや、情報を整理する――といった使い方は可能だとも指摘する。
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