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イケア「着替え時間の賃金」問題 他人事ではない「○○って労働時間?」働き方の「今」を知る(2/3 ページ)

» 2023年09月14日 06時00分 公開
[新田龍ITmedia]

労働時間に該当する? しない?

 労働時間の判断は「会社の指揮命令下に置かれているかどうか」がポイントだとお伝えした。では、次の時間は果たして労働時間として賃金支払いの対象となるだろうか。お考えいただきたい。

  • 担当作業終了後、片付けをする時間
  • 受講義務がある社外研修に参加する時間
  • 客がめったに来ない店で、店員が来客を待っている時間
  • 夜間の宿直業務において、仮眠する時間
  • 昼休み中、突然訪れた来客に対応する時間
  • 会社が定期的に実施する健康診断に要する時間
  • 重要な機密書類を携えて、出張先へと移動している時間
「機密書類を携えて、出張先へと移動している時間」は労働時間になるか?(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 察しのよい方ならお気付きかもしれないが、これらはいずれも「賃金支払いの対象となる労働時間」として扱われる。もし初耳であれば、ぜひこの機会に再認識いただければ幸いだ。

 中でも、例えば「来客待ち」や「仮眠」「出張先への移動」といった時間は身体が休まっている以上、休憩時間かのような印象を持つ方も少なくないだろう。そして実際に、休憩時間として無賃金扱いとしたり「休憩時間なんだから、ちょっとした電話番や来客対応くらいは任せてよいだろう」などと思ってしまいがちだ。

 しかし、これらは「手待ち時間」と呼ばれ、実作業はしていないとしても「会社から指示があった場合、すぐに作業に取り掛かれるような状態で待機している時間」として扱われる。当然これは「会社の指揮命令下にある」わけだから、労働時間なのだ。

 出張先移動も、単に自由に時間を使える移動だけであれば労働時間にはならないが、移動中に作業をこなす指示が出ていたり、金銭や物品の監視義務を担っていたりする場合は、当然ながら労働時間扱いとなる。

 また、先ほど「黙示の命令」という言葉が出たが、これは労働時間のみならず、残業時間に該当するか否かを判断する際にもよく用いられる概念だ。例えば、従業員の過重労働が発覚した組織において、その労働が決して「業務命令ではない」との扱いにしたいがために、使用者側がしばしばこのような言い訳をしているのをご覧になったことはないだろうか。

  • 民間企業の場合:当社では残業禁止がルールです。残業している人は自主的にやっているだけなので、残業代は払われません。

  • 学校の場合:授業準備や部活動などは、残りたい人が主体的にやっているだけなので、業務命令ではありません。

  • 病院の場合:院内にいる時間には、知識や技能を習得するための自己研鑽の時間が含まれますので、全てが労働時間ではありません。

 いくら使用者側が「残業禁止」や「主体的な行動」などと主張して責任を逃れようとしても、客観的にみて時間内で終らない量の仕事を与えていたり、目の前で行われている残業を管理職が黙認していたり、部活指導や自己研鑽をしないことで組織から不利益な扱いを受けたりするのであれば、それは「黙示の残業命令」である。当然残業代支払の対象となるし、労務管理がずさんであることに変わりはないのだ。

 イケア・ジャパンのニュースは、いわばこれまでの違法状態が判明したという本来は不名誉な報道であったにもかかわらず、世論は「ちゃんと法律を守って、働く人の意欲を向上させようとしている!」と、ポジティブに受けとめられていたことは大変印象的であった。

 手待ち時間や労働時間の定義を正しく理解し、遵法に企業運営を心掛けていけば、真っ当に評価される時代であると前向きに捉えるべきであろう。

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