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イケア「着替え時間の賃金」問題 他人事ではない「○○って労働時間?」働き方の「今」を知る(3/3 ページ)

» 2023年09月14日 06時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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真摯に取り組まない企業が直面するリスクとは?

 とはいえ「打刻してから着替えなんてさせたら、そのあと雑談したり化粧したりしてサボるヤツが出てくるんじゃないか? そんな時間に給料なんて払いたくない!」などと思われる経営者諸氏もいらっしゃることだろう。

 もちろん中には不行き届きな社員が出てくる可能性はあろうが、だからといって法制を無視してよいわけではない。このような心配があるなら、例えばタイムカードの打刻自体は実際に業務を始める時刻と業務が終了した時刻にするよう徹底し、制服への着替えについては、あらかじめ必要な時間を「15分」などと定め、その時間分の賃金を固定で支払う、といった方法も可能である。

着替えに必要な時間を定め、賃金を固定で支払うことも可能(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 皆さまの会社組織におかれては、これまで「経費削減」の大義名分のもと、さまざまな理由をつけて支払ってこなかった賃金や、黙認していた違法状態がどこかしらに存在しているのではなかろうか。

 今や、たかだか着替え時間10分ぶんの賃金支払いといえども、全国ニュースになるくらいの関心度を持たれるご時勢である。人手不足が叫ばれる一方で、企業側の労働環境改善の努力は前向きに評価され、採用定着や事業発展につながることは間違いない。逆に違法状態に対して見て見ぬふりを続けていれば、人が集まらない時代となっているのだ。

 しかも、20年4月1日より民法の改正によって、未払い賃金や残業代請求の時効が、従来の2年から3年へと伸長されている。未払い金が生じている企業にとっては、この改正により、最大3年分の未払い賃金・残業代が請求されるリスクを抱えることとなるのだ。

 未払い金関係のトラブルは、証拠が残っていることが多く、労基署にとっても対応の優先順位が高い事案である。また交渉によってまとまった金額が獲得できるとなると、弁護士事務所や社外の合同労働組合(ユニオン)も本腰を入れて取り組んでくることが予想される。実際、今般のイケアの事案もユニオンが交渉に当たっていたものだ。

 各社はぜひ労務管理を徹底いただき、従業員とのトラブルを未然に防止するとともに、彼らのモチベーションアップのために、着実に対策を講じておいていただきたい。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

 

著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。


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