復活のロータリー 「ROTARY-EV」で、マツダは何をつくったのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2023年09月18日 11時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

どうやってコンパクトなワンローターエンジンをつくったのか

 ではマツダは一体どうやってコンパクトなワンローターエンジンをつくったのか。まずは第一義の軽さの追求である。従来鋳鉄製だったサイドハウジングをアルミ製に代えた。アルミだと困る問題があったのでこれまでは鋳鉄を使っていたわけだが、問題の中核は摩耗である。サイドシールに擦れ続けることで、アルミが摩耗して圧縮比が下がってしまう。そこでマツダはサイドハウジングの摺動面(しゅうどうめん)に、セラミックと金属をブレンドした被膜を溶射したのだ。これによってサイドハウジングの重量を58%改善した。

 もちろん2ローターから1ローターにすることで、挟み込むサイドハウジングが1枚まるまる減るし、ローターも1個減る。こうした工夫を重ねることでエンジン単体で15キロの軽量化を成し遂げた。

新開発の1ローターエンジン 8C。従来型の2ローター13Bと比べるとコンパクトさが分かる
従来型の13Bロータリー。ルーチェ、コスモを皮切りに、スポーツカーRX-7に搭載された。その後RX-8への採用を最後に、生産を停止している。なお写真と異なり、ローターとハウジングは本来2セットある

 一方で、バッテリーの電力を使い果たした時は、システム上、エンジンの発電能力だけで走らなければならないので、エンジンの出力も増やしたい。発電不足でパワーダウンしすぎると製品として失格だ。そこでレシプロエンジンでいうロングストローク化を図った。エキセントリックシャフトの偏心量を増加し、繭(まゆ)型ハウジングも大型化、おむすび型のローターも大きくなったが、厚みは削っている。

 ロータリーエンジンというと誰もが心配するのは、前述した通り燃費なのだが、今回はエンジンで直接タイヤを駆動するわけではないので、低速から高速まで満遍なく使える必要はない。そういう広いパワーバンドを使うことを考えた時、レシプロエンジンなら可変バルブタイミングを使うことができるが、2ストロークエンジンと同様に、吸排気をサイドハウジングのポート位置で固定されてしまうロータリーは可変吸排気タイミングが難しい。

 発電用ならむしろ定格で回す方向にしたいのだが、そこはそう簡単ではなかった。前述の通り、意外にパワーを求められるからだ。だったら回転数を上げてしまえば良いようにも思うが、本格的にそれをやろうとすると、2ローター化が待っている。それでは小さく軽くという初期のコンセプトと話が違ってしまう。

8Cロータリーのコンパクトさが分かる

 そこで、折衷案としてロングストローク化でトルクを稼ぎ、合わせて利用回転域の幅を少し上に広げた。トルクかける回転数が馬力。つまりこのシステムでは発電力を意味するので、この方法で、バッテリーが空になって発電機のみで電力を賄わなければならない場面に備えた。

 あとは徹底的な軽量化である。ローターも含めて、鋳造技術を凝らして、あらゆる部品を薄肉化していった。これで当初の狙い通りの軽量コンパクトと必要馬力をバランスさせていったのだ。一方耐久性に関しては、要求されるレベルが圧倒的に楽になった。何しろエンジンが厳しい条件で使われることがない。余裕のある使われ方な上に、稼働時間も短い。

 加えて、当時はなかった技術もいろいろ使える。筒内直噴とスキッシュエリアの形状変更で燃焼も安定させた。ロータリーの場合、燃焼室が繭型ハウジングの外周をずっと移動し続けるので、燃焼室の移動に対して燃焼が置いて行かれる。だからスキッシュエリアから燃焼ガスを飛ばして移動先まで炎を回してやるのである。

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