復活のロータリー 「ROTARY-EV」で、マツダは何をつくったのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2023年09月18日 11時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

これはハイブリッドではなくBEVである

 ここはしつこく書く。R-EVはBEVである。ということで、他のBEV同様、メカニズム構成の特徴上、充電は家でゆっくりやれというのが基本になる。ゆっくりやった方がバッテリーの劣化も防げるし、MX30シリーズは、EVモデルもR-EVも、ある種の信念を持ってバッテリー容量を削ってあるから、小さいバッテリーの恩恵で、比較的短時間でちゃんと満充電になる。

デザイナーがこだわりまくったキー。胴体の黒いプラスチック部分は、ローターのCADデータから、銀色の縁取りはアペックスシールのCADデータからつくったという。その説明をする時のデザイナーの嬉しそうな顔が思い出される

 一般的な家庭用の普通充電器は3kW。10時間稼働したとして理論値上の充電能力は30kWh。BEVに搭載されているバッテリーサイズによっては、満充電まで回復するかどうかは、帰宅時間と出発時間、それに電池残量に依存するのだが、仮に自宅での駐車時間が12時間あっても理論値で36kWh。そのあたりが一晩で家庭で充電できる上限だ。

 だから40kWhあたりを境として、無闇にそれ以上の大容量のバッテリーを積んでも、あんまり意味がない。それ以上は、一晩では回復できない。週に一度しか乗らないならそれはどうとでもなるだろうが、今度は本当にクルマが要るのかという疑問が発生する。

 という条件分岐のもやがたっぷりかかったあたりを前提に、マツダのエンジニアリングを鳥瞰すると、マツダはEVモデルとR-EVを、「モリモリバッテリー仕様」に対するアンチテーゼとして、適正なバッテリーサイズのBEV兄弟車としてつくったという絵柄が見えてくる。2台の違いは、EVモデルは、経路での急速充電を多少考慮に入れたBEVであり、R-EVは電気が減ったらガソリンで走るBEVである。

 いい加減しつこいだろうが、とにかくどちらも基本はBEVだということが大事だ。モリモリバッテリー仕様の何がいけないのかは、この連載の過去記事で書いているので少々長いが抜き出しておく。

 現状では、鉱物資源供給量には制約がある。仮に目の前に「100kWh分のバッテリー原材料」があったとして、それをどう配分するとどの程度CO2が削減できるかは、簡単にシミュレーションできる。

 原材料が100kWh分だから、100kWhのBEVをつくれば当然1台分だ。もう少しバッテリーが小さい50kWhのBEVなら2台つくれる。同様に、20kWhのPHEVなら5台生産でき、1kWhのHEVならなんと100台もつくれることになる。

 それぞれどの程度、CO2を削減できるのかを算出してみる。取りあえずの前提条件としては、純内燃機関車は1キロ走行当たり130グラムのCO2を排出するとする。これは2020年までのCAFEの規制値である。純内燃機関車に対するBEV、PHEV、HEVそれぞれの削減率は、ひとまずの仮定として、BEVは100%、PHEVは80%、HEVは30%とする。

  • バッテリー搭載量100kWhのBEVを、CO2排出量130グラムの内燃機関車1台と置き換える場合、削減率100%×1台なのでその効果は130グラム
  • バッテリー搭載量50kWhのBEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車2台と置き換える場合100%×2台なのでその削減効果は260グラム
  • バッテリー搭載量20kWhのPHEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車5台と置き換える場合、80%×5台なのでその効果は520グラム
  • バッテリー搭載量1kWhのHEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車100台と置き換える場合、30%×100台削減するのでその効果は3900グラム

 もちろん、バッテリー原材料が豊富に生産され、いくらでもバッテリーがつくれる時代がやってきたらBEVの比率を増やしていけば良い。そのとき、HEVにこだわっていたら効果的な削減はできない。しかし、これまで述べてきた通り、今の世界を前提にすれば原材料供給には制約がある。バッテリー原材料が制約された世界で、カーボンニュートラルを、喫緊の課題だと捉えて取り組むとすれば、限られたバッテリー資源の効果的な配分を抜きには語れない。

バッテリー容量を小さくすれば、同じ量の原材料で多くの内燃機関車(ICE)を置き換えられる。ICEのキロあたりCO2排出量を130グラムとすると、グラフのように小さなバッテリーほど、多くのCO2排出量を削減できることになる(関連記事

 さてR-EVは、外で充電できないのならどうするか。その時はガソリンを入れてロータリー発電機を回す。いやなに、自宅でちゃんと充電さえしていれば、航続距離は107キロもある。日々の運用はBEVモードだけで十分賄えるだろうし、それ以上の距離を頻繁に走る人はBEVを買っている場合ではない。

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