クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

世界はマルチパスウェイに舵を切った! 「BEVはオワコン」という話ではない池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2023年06月05日 08時57分 公開
[池田直渡ITmedia]
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CO2削減効果はどのくらいか

 また先述した通り、現状では、鉱物資源供給量には制約がある。仮に目の前に「100kWh分のバッテリー原材料」があったとして、それをどう配分するとどの程度CO2が削減できるかは、簡単にシミュレーションできる。

 原材料が100kWh分だから、100kWhのBEVを作れば当然1台分だ。もう少しバッテリーが小さい50kWhのBEVなら2台作れる。同様に、20kWhのPHEVなら5台生産でき、1kWhのHEVならなんと100台も作れることになる。

 それぞれどの程度、CO2を削減できるのかを算出してみる。取りあえずの前提条件としては、純内燃機関車は1キロ走行当たり130グラムのCO2を排出するとする。これは2020年までのCAFEの規制値である。純内燃機関車に対するBEV、PHEV、HEVそれぞれの削減率は、ひとまずの仮定として、BEVは100%、PHEVは80%、HEVは30%とする。

  • バッテリー搭載量100kWhのBEVを、CO2排出量130グラムの内燃機関車1台と置き換える場合、削減率100%×1台なのでその効果は130グラム
  • バッテリー搭載量50kWhのBEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車2台と置き換える場合100%×2台なのでその削減効果は260グラム
  • バッテリー搭載量20kWhのPHEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車5台と置き換える場合、80%×5台なのでその効果は520グラム
  • バッテリー搭載量1kWhのHEVを、CO2排出量130グラムを排出する内燃機関車100台と置き換える場合、30%×100台削減するのでその効果は3900グラム

 もちろん、バッテリー原材料が豊富に生産され、いくらでもバッテリーが作れる時代がやってきたらBEVの比率を増やしていけば良い。そのとき、HEVにこだわっていたら効果的な削減はできない。しかし、これまで述べてきた通り、今の世界を前提にすれば原材料供給には制約がある。バッテリー原材料が制約された世界で、カーボンニュートラルを、喫緊の課題だと捉えて取り組むとすれば、限られたバッテリー資源の効果的な配分を抜きには語れない。

 札幌G7の文言を引用し「世界の温室効果ガス(GHG)排出の即時、大幅、迅速かつ持続可能な削減を達成」とするならば、早急なBEVへの切り替えは、短期的なCO2排出量を増やしてしまうリスクがあり、直近ではHEVで台数を稼ぐ方がCO2削減につながるのは計算で示した通りである。そこは熟慮して、BEVとHEVの比率をどのようにバランスさせたときに、最も環境負荷が低くなるかをしっかり考えるべきだろう。

 いま、ようやくそういうプラクティカルな取り組みの声が上がってくるようになった。4つのニュースはそれを示している。何度も書いた通り、BEVも大事だが、e-FUELや水素、加えて、HEVも世の中の動向に合わせつつ、それぞれがそれぞれの役割を果たす総力戦で戦わなければ、カーボンニュートラルの早期達成はおぼつかないと思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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