クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

世界はマルチパスウェイに舵を切った! 「BEVはオワコン」という話ではない池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2023年06月05日 08時57分 公開
[池田直渡ITmedia]

温室効果ガスの削減を目指す

 2つ目は、5月19日から札幌で開催された「G7 気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」で発表された文書の第44項である。抜粋の後にサマリーを付けておくので、長くて面倒な人は飛ばしても良い。

44. 気候の危機:我々は、IPCCの第6次評価報告書(AR6)の最新の見解によって詳述された気候変動の加速化及び激甚化する影響に対する強い懸念を強調する。世界の温室効果ガス(GHG)排出の即時、大幅、迅速かつ持続可能な削減を達成し、全ての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保するためには、全てのセクターとシステムにおける迅速かつ広範囲な移行が必要である。現在実行可能で有効な適応の選択肢は、地球温暖化が進むにつれ、制約を受け、効果は低下する。我々G7は、科学的知見に基づき、我々の指導的役割を継続し、全てのコミットしたパートナーとともに、気温上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ続けるために排出量を削減し、気候の影響に対する強靱性を世界全体で構築するための即時かつ具体的な行動をとることをコミットする。我々は、この決定的に重要な10年間において、現時点の世界の排出量の軌跡及び現在のNDCと、気温上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ続けるために必要な野心と実施のレベルの間の大きなギャップを埋め、遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量(GHG)をできるだけ早くピークにし、遅くとも2050年までにネット・ゼロ排出を達成するために、全てのレベルの主体が一丸となり、全ての部門を通じて我々の経済を変革するために協働することを求める。我々はIPCCの最新の見解を踏まえ、世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する。

 ポイントとしては「野心的目標と現実的な手段のギャップを埋めて、温室効果ガスを減らす」ということを言っていて、その効果測定はBEVの普及率ではなく、温室効果ガスの削減割合で評価すると明確に定義された。これは自工会が繰り返し主張してきた「敵は内燃機関ではなくCO2」という主張と完全に一致する。また、現実的な手段という意味では同じく自工会が繰り返してきた「プラクティカルな脱炭素」とも一致するわけである。

F1のパワートレインをHEVへ移行

 3つ目。F1の新レギュレーションである。国際自動車連盟(FIA)は、26年を目標に、F1のパワートレインをe-FUEL(合成燃料)を燃料とするハイブリッド(HEV)へと移行するレギュレーション改定を行う。余剰エネルギーを電気エネルギーとして回収して利用するエネルギー回生システム(ERS)でパワートレイン全体の半分の出力を発生する。

わが国ではエネオスがe-FUELの開発に取り組んでおり、富士スピードウェイに燃料を持ち込んでデモ走行を行った

 要するに、従来のガソリンに代えてe-FUELを使いながら、以前に比べて熱効率をさらに高めるシステムになる。なお、このレギュレーション改定を受けて、一度F1からの撤退を発表したホンダは、アストンマーティン・アラムコ・コグニサント・フォーミュラ・ワン・チームに新世代パワーユニットを供給することを5月24日に発表した。

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