ふるさと納税のいわゆる「改悪」が10月に施行される。9月内にかけ込み的にふるさと納税の利用者が増えており、関心も高まっている。
今回の「改悪」のポイントは、ふるさと納税の還元率低下をもたらす経費の上限を「寄付額の5割以下」とし、以前よりも厳格になるという点だ。近年の総務省による調査では、多くの納税者が利用する「ふるさと納税ワンストップ特例制度」にかかる事務費用や書類関連の経費がふるさと納税に関するものとして計上されていないケースが多く、それを含めると5割の経費上限をオーバーしていたケースが多いことが分かっている。
ふるさと納税は、過剰な還元レースを背景とした「改悪」が行われていた。現在では、返礼品の仕入れ値は寄付額の3割以内、そして送料やプラットフォーム利用料といったその他の経費も含めて5割以内と既定されていた。2019年6月に大阪府泉佐野市がふるさと納税が可能な地方自治体から一旦除外されたことは、記憶にも新しいだろう。
そのような事例と比較すると、今回の「改悪」は今まで見逃されていた部分が是正されるだけであり、厳密には「改悪」とはいえないが、多くの自治体で寄付額あたりの返礼品は10月を境に少なくなることが予想される。
それでも、ふるさと納税は「しない方が損」であるという分かりやすいインセンティブを提示することで、年々市場規模を拡大させている。22年にはなんと年間で9654億円もの寄付が集まり、過去最高額を更新した。賃上げも進んできた23年には、いよいよ1兆円の大台超えも射程圏に入ってきた。「1兆円市場」といえば、日本におけるスマホアプリ市場のちょうど半分くらいといえば、そのスケールの大きさが分かるだろうか。
さらに返礼品の仕入れ値が「3割以内」ということは、粗利率は66%以上という超高収益のビジネス分野だといえる。そんな高リターンのビジネスを最大限活用できない、東京都の特別区や首都圏のベッドタウンエリアに位置する地方自治体では以前から「ふるさと納税のせいで地方税が流出しており、これが続くと行政サービスに支障が出る」という不満をWebサイトで公開したり、チラシなどで広報したりしている。
ただし、地方自治体の立場からは、納税者の幼少期には地元の負担で学校やインフラ、子育て支援といった先行投資をしてきたにもかからわず、税金を払う段階になって首都圏の自治体に横取りされているという考え方もできる。一方的に首都圏大都市にある自治体の言い分のみを肯定することはできない。
ふるさと納税は時に「都道府県間のバトルロイヤル」といったあだ名がつく。近年のふるさと納税をめぐっては地方自治体同士の返礼品競争、総務省とのチキンレースにとどまらず、地方vs.首都圏大都市といったさまざまな観点からの争いも激化している。資本主義を体現したかのような市場原理と熾烈(しれつ)な競争があるのだ。
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