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仏ロレアルはなぜ「化粧品の王者」でいられるのか? マスカラ「スカイハイ」爆売れの深層責任者に聞く日本戦略(1/2 ページ)

» 2023年09月27日 08時00分 公開
[武田信晃ITmedia]

 仏ロレアルは、実に36の化粧品ブランドを抱える世界最大の化粧品会社だ。その1つ「MAYBELLINE NEW YORK(メイベリン ニューヨーク)」が、日本で2022年9月に発売したマスカラ「SKY HIGH(スカイハイ)」が好調だ。同商品の年間販売個数は、あまたある国産ブランドを抑えて年間1位を記録している(ロレアル調べ、22年8月29週〜23年8月27週、インテージ社マスカラカテゴリーSKU別累計販売個数において)。

「ITZY」のリアとリュジンを起用したマスカラ「スカイハイ」が好調(ロレアル提供)

 デパートやドラッグストアの売り場を見ても分かるように、化粧品業界の競争は熾烈(しれつ)を極め、まさに群雄割拠という言葉がふさわしい状況だ。そんな業界で外資系企業にもかかわらずトップを維持し続ける理由は何なのか。

 同社の消費者製品部門プレジデントを務めるアレクシス・ペラキス氏に話を聞いた。

ロレアル消費者製品部門プレジデントのアレクシス・ペラキス氏

マスカラ「スカイハイ」爆売れの理由は?

 ロレアルは1909年、フランス人科学者のウジェーヌ・シュエレールが創業した。毛染めの商品から始まり、その後、科学の知見を生かしてスキンケア、香水などいろいろな化粧品分野に進出。他ブランドを買収したり、販売ライセンスを取得したりしている。

 現在展開しているブランドはメイベリンの他、ランコム、イヴ・サンローラン・ボーテ、アルマーニビューティー、ラルフローレン・フレグランス、ヴァレンティノビューティー、プラダ、シュウ ウエムラなど、誰もが聞いたことのある36もの化粧品などを150以上の国と地域で展開中だ。

 社員は168カ国・地域から8万7400人が在籍。科学が出自ということもあり、在籍する科学者は4000人強、リサーチとイノベーションへの投資は約10億ユーロ(約1580億円)、リサーチセンターは20、評価センターは13、2022年に登録された特許数は561を数える。

 その一方で、科学以外でのテクノロジー人材の拡充にも力を入れている。デジタルエキスパート3400人強、アプリの肌診断開発やリップのバーチャル試着などを手掛けるリテールパートナー数は28(30カ国・地域で31のサービス)、同社のデジタルプラットフォームでつながっている人は17億人、インスタライブやライブコマースなどのサービスライブ数は1000強(110カ国・地域で30ブランド)となっている。

 同社の22年12月期の決算によると、売上高は前年比18.5%増の382億6060万ユーロ、経常利益は同19.5%増の74億5690万ユーロだった。地域別の売上高を見ると、ヨーロッパ(欧州)が同12.3%増の114億3670万ユーロ、北米が同24.6%増の101億6400万ユーロ、北アジアは同14.8%増の113億2140万ユーロ、SAPMENA-SSA(南アジア太平洋、中東、北アフリカ、サハラ以南のアフリカ地域)は同28.1%増の29億6240万ユーロ、ラテンアメリカは同34.1%増の23億7620万ユーロだった。

 アジアの伸び率が低いのは新型コロナウイルスの防疫対策の緩和が他の地域より遅かったことが挙げられるが、「日本と韓国は2桁の成長をした」としている。

グローバルな商品でもできるだけローカライズする

 同社は、21年度決算でも2桁の成長をしていて、コロナ禍でも順調に業績を伸ばした。その要因を同氏に聞いてみた。

 「イノベーションを止めなかったことが挙げられます。研究開発、マーケティングなどリモートで働いていましたが、コミュニケーションを密にして協力し合いながらやってきたことが大きかったと思います」

 イノベーションとは、組織、技術など何を指しているのか。

 「全てにおいてですが、特に製品についてですね。新しいものをリリースしていくのと同時に、売れ筋の商品を改善し続ける必要もあります。例えば、マスカラのスカイハイは21年に世界で発売をし、売れているのですが、日本でも22年9月に発売しベストセラーになりました。ヒットの理由は、日本に合う形にして改善させたからです」

 ロレアルは日本、韓国、中国を「ビューティートライアングル」と位置付け、市場として域内の連携を強めている。だがグローバルブランドが、少子化によって人口減少している日本に目を向ける必要があるのだろうか。

 「日本の化粧品市場は世界3位ですから、世界戦略的に重要な位置を占めています。消費者も先進的でかつ、消費者一人ひとりがビューティーの専門家と言っていいほど、豊富な知識を持っています。そこから多くのインスピレーションをもらっていますね。

 グローバルな企業でありつつも、ローカルにも強い経営をしたいと思っています。マスカラを見てみると、メイベリンというブランドもスカイハイという商品もグローバルに展開しています。ただ日本や中国、韓国、台湾、香港という北アジアで販売しているのは、世界の他の地域で売られているものとは異なるブラシとパッケージを採用しています」

 通常、マスカラのブラシは360度毛がある一方、日本を含む北アジア版は180度、つまり半分だけだ。また、まつげ自体が半円の形をしているので、ブラシ形状もそれに合わせて真ん中が膨らむ形にしてある。湿気が多いことから防水性を高め、汗や涙などに強く長時間キープできるようにした。

 これらの効果は抜群で、調査会社のインテージによると22年5月30日の週から23年5月22日の週までの1年間で、Sky High 01(スカイハイブラック)は91万8221ユニットを販売し、年間1位に輝いたのだ。

 スカイハイの発売は22年9月であり、年間累計販売個数が1位となった(ロレアル調べ、2022年8月29週〜2023年8月27週、インテージ社マスカラカテゴリーSKU別累計販売個数において)。

 ヒットしている理由として、K-POPグループ「TWICE」の妹分と呼ばれている「ITZY」のリアとリュジンをイメージモデルに起用したのも大きいだろう。人気化粧品店のアットコスメストアやドラッグストアで彼女たち2人の大きな広告を見ると「これなら若者はテスターを手に取って見たくなる」と思わせる。購入する確率が上がることが容易に想像できるのだ。全て理にかなった販売戦略をしている。

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