桂浜水族館が公式Webサイトに掲載した値上げを伝える文書は、一般的な企業のそれとは一線を画すものでした。
書き出しで「1200円でも『入館料が高い!』と言われている桂浜水族館」などと自虐を織り交ぜながら、値上げに至った経緯を「このご時世、なかなかにしんどい」などと率直に表現。顧客に値上げをお願いしながらも、素直でかつクスッと笑えるコミュニケーションを展開し、ユーモアたっぷりに説明したのです。
これに対しては顧客もポップに反応。値上げを深刻に捉えることなく「大変申し訳ございませんって言われるより潔くていい」「ネットで楽しませてもらっている分、納得」など、好意的なコメントが多く見られました。値上げによる反感をコミュニケーション術でうまくかわし、顧客を味方につけたといえるでしょう。
このように値上げの際にはコミュニケーションも一つのポイントです。「値上げ」という後ろ向きな情報を、いかにポジティブに受け取ってもらえるか。共感し、納得してくれるかは、メッセージや伝え方一つで大きく変わります。
同様の例には、かつて話題になった赤城乳業の「ガリガリ君」の値上げがあります。当時放映されたCMは、会長や社長を含む100人以上の社員が一様に頭を下げながら、値上げをわびるものでした。
10円の値上げに対してコストをかけて全力でわびるという「まさか」の展開に、世間からは「なんだか許せる」といった声が上がり、最終的には「これまで頑張ってくれてありがとう」と同社を応援するコメントも多く寄せられたのだとか。また、機転の利いたCMそのものも多数の広告賞を受賞しました。
ただし、桂浜水族館にしてもガリガリ君にしても、こうしたユーモアを交えたコミュニケーションは決してその場しのぎの対応だったというわけではありません。
桂浜水族館でいえば、普段からSNSで「中の人」が型破りで破天荒な投稿をして顧客とコミュニケーションを取っていますし、ガリガリ君は遊び心ある商品開発で常に世間を賑(にぎ)わせています。こうして積み重ねた企業イメージがあるからこそ、値上げ時にも「らしい」コミュニケーションでハレーションを最小限に抑えられているのです。
ここまでの話から、値上げのコミュニケーションはハードルが高いと思われたかもしれません。もちろん日常的な顧客との関係構築やブランディングはとても重要ですが、短期的であっても顧客の共感や理解を誘う伝え方のコツがあります。
それは値上げという企業都合のネガティブな情報だけでなく、顧客視点でのポジティブな要素を付け加えることです。値上げが顧客にとってもより良い未来につながる、顧客にメリットがあるなど、値上げがもたらす価値を発信することは、顧客の納得感に寄与します。
例えばローソンの「からあげクン」は、こうした発信の工夫で値上げが成功した好例です。値上げの際に発信した内容は、これまで長年支えてくれた顧客への感謝と、値上げの事実、そして増量キャンペーンについて。顧客の目線からすれば、単に値上げの事実だけを伝えられるよりネガティブな気持ちが緩和され、長年取り組んできた実績を再認識することでこれからの商品づくりへの期待感にもつながったでしょう。増量キャンペーンが、値上げの痛みを緩和する効果を発揮したとも推察されます。
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