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日本で「リスキリング」という言葉が空回りし続けるワケ使われ方に違和感

» 2023年09月28日 15時06分 公開
[石角友愛ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

この記事は、石角友愛氏の著書『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。

 日本では「リスキリング」という言葉がトレンドワードのように使われていることに不安を感じます。そして、リスキリングという言葉を聞くと、反射的に「面倒だなあ。できればやりたくないなあ」「こんなに忙しいのに、どうして学び直しなんかしなくてはならないの?」と感じる風潮になっていることにも危機感を覚えます。

リスキリングが「面倒なこと」と思われつつある日本(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 海外では「自分のために行う」リスキリングが、なぜ日本では「人にやらされる」面倒なことになっているのでしょうか。その理由は、日本で「リスキリングをする」といった場合、その主語が「企業」であることが多いからだと私は考えています。

 実際のところリスキリングとは、企業が自社の従業員に必要なスキルを、人材の再教育によって確保する意味で使われることが多くなっています。それは、リスキリング支援の1兆円が、主に企業に支払われるという構造のせいもあるでしょう。

「リスキリング」という言葉への違和感

 もちろん、これまで述べてきたように、従業員のリスキリングは企業にとって確実に重要になります。しかし「企業が従業員を学び直しさせる」という概念だけが先行すると、従業員視点が抜け落ちます。

 リスキリングの結果、従業員にはどのようなメリットが生まれるのか、キャリアはどうなるのか、給料は上がるのか、といったことが見えにくい。このような、リスキリングした人材を評価するシステムや制度が整備されていないから、リスキリングが人ごとになってしまうのです。

 リスキリングを人ごとだと考えると、せっかくの学び直しの機会を逃してしまいます。つまり、あなた自身のキャリアへの投資機会をみすみす逃すことになってしまうのです。

 余談ですが、米国では自分が学び直しする際に、「私は今、リスキリングしている」と表現するようなことはありません。もっと具体的に「私は今、プログラミングのこの言語を習っている」「私は今、ビジネススクールで会計について学んでいる」といった言い方をします。リスキリングという言葉が、日本ではいかに曖昧(あいまい)に捉えられているかが、分かるのではないでしょうか。

 リスキリングという言葉自体が曖昧に使われているため、その言葉から抱くリスキリングのイメージも人それぞれです。「リスキリングする」と聞くと、大学院に入り直さなくてはならない、資格を取らなきゃいけない、といった固定観念にとらわれ、仕事をしながらそんなことは無理だと考えてしまう人も多いと思います。

 ですがリスキリングというのは、何も学校に通ったり資格を取ったりすることだけではありません。チャットGPTのようなAIツールを使いこなせるようになるだけでも、立派なリスキリングです。むしろ大切なのは、必要なタイミングで学び直しができる人とできない人とでは、今後の給与水準や仕事の環境が大きく変わってくるという点でしょう。

 ひとことでリスキリングと言っても、さまざまなレベル感があります。それを分かりやすくするために考えたのが「リスキリング・オプション・マトリックス」です。このマトリックスの縦軸は、手に入れたいのが具体的なスキルなのか、それとも汎用性の高いスキルなのかについて示しています。一方の横軸は、そのスキルを習得するのにかかる時間や費用、労力を含むコストを表しています。

リスキリング・オプション・マトリックス(出所:石角友愛著『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』)

リスキリングにはさまざまなレベルがある

 例えば、ピンポイントでデータサイエンスのスキルを手に入れたいと思ったら、大学院に行かなくても学ぶことはできます。多少お金はかかりますが、短期集中型の「ブートキャンプ系」のリスキリングによって、1カ月から半年程度で習得することも可能です。

 もっと幅広い汎用性の高いスキルを手に入れたい場合、「教養系」のリスキリングであればYoutubeや書籍を使って、お手軽に学ぶことも考えられます。また、チャットGPTのようなAIツールを使いこなせるようになりたい場合は、左上になります。このゾーンが時間もコストも比較的少なくて済む「ツール系」のリスキリングであると気付くだけで、視野が広がるのではないでしょうか。

 まずは、リスキリングに対する抽象的な概念をより具体化して、解像度を上げることから始めましょう。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

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