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“学びたくない”日本人 2000億円の投資で「給料が上がる仕組み」は作れるか?労働市場の今とミライ(1/3 ページ)

» 2023年09月21日 07時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

 政府がリスキリング(学び直し)支援に熱心だ。厚生労働省は2024年度の概算要求でリスキリングなどに2000億円を盛り込んだと発表した。

 加藤勝信厚生労働相は9月5日の記者会見でデジタル分野を中心に学び直しや多様な働き方を推進し「賃金の上昇を伴う労働移動を支援する」と述べている。

狙いは「賃金が上がる仕組み作り」 

 リスキリングの推進は、政府の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)に盛り込まれた「三位一体の労働市場改革」の戦略の1つだ。三位一体改革とは「リスキリングによる能力向上支援」「企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の3つを推進し、賃金が上昇する仕組みを作っていくことだ。 

狙いは「賃金が上がる仕組み作り」(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 個人に対して時代が求めるスキルを習得するリスキリングを支援し、企業に対しては求めるスキルを明確にした職務給というジョブ型賃金の導入を促し、転職が容易になるようすることで賃金が上昇する仕組みを作ることに狙いがある。加藤大臣の発言もこの戦略に沿ったものだ。

 具体的には、非正規社員を正社員にした企業に助成する「キャリアアップ助成金」の拡充や、デジタル分野を始めとする資格学習などの費用を最大70%補助する「専門実践教育訓練給付」、未経験の高齢者などを受け入れた企業に対する「特定求職者雇用開発助成金」などのメニューを挙げている。

 これらにより個人と企業を支援していく方針だが、実際に予算を獲得しても消化できるのかという疑問も残る。

研修導入しても……自発的に勉強する社員は「ほぼ見たことがない」

 そもそも日本企業は従業員に対する能力開発投資が諸外国に比べて低い。日本企業のGDPに占める能力開発投資(OJTを除く)は2010〜14年でわずか0.1%にすぎない。米国企業の2.08%、フランスの1.78%、イタリアの1.09%にはるかに劣る(厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」)。

厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」より

 これほど少ないと当然、社員自ら勉強しようとする人も少ない。最近でこそ「キャリア自律」が叫ばれるようになり、大手企業を中心に外部の研修会社と提携し、e-ラーニングで受講できる自発的研修を社員に提供するところも増えつつある。

 しかし大手企業の管理職研修を手掛ける外部の講師は「大手企業はそうした研修を結構やっているが、実際に社員が学んでいるかといえば別の話だ。現実的にe-ラーニングを利用して勉強している社員をほとんど見たことがない。おそらく8割以上はやっていないと思う」と語る。会社が研修メニューを用意しても、仕事が忙しいからなのか自発的に受講する人が少ない。

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