大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/4 ページ)

» 2023年10月05日 08時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]
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路線バス廃業を止めるために必要な2つのコト

 地域に必要なバス路線を、持続可能なかたちで残したい。全国のバス会社や自治体の一致した願いだろう。今回の金剛バスのような“突然死”を迎える前にバス会社を救済する目的もあり、国(国交省)が主導する新たな補助制度「エリア一括協定運行事業」が23年度から始まった。

 この制度はこれまでの「とにかく赤字補填」という在り方から抜け出し、路線バスの枠にとらわれない「地域交通の再編」を促すものだ。

バス 路線バス共同運行のイメージ(国土交通省資料より)

 例えば「同エリアの移動手段の競合」も再編の対象となる。金剛バスで例えるなら、河南町内では並行して、町営バス・デマンドタクシー(カナちゃんバス・かわせみタクシー)、富田林病院の送迎バス、企業送迎バス、スクールバスなどが走り、同社の利用者を細かく奪っていった。

 こういったムダな競合を避けるために、可能な限り体制を一括化(おそらく各事業者は個別で残り、持ち分の便の運行を委託されるような方式になるだろう)。同じ時間に並走しないように運行本数を削減する。それぞれの車両を使って、例えば「朝晩だけバス会社の大型バス、昼間は送迎バス用のワゴン車」などという、利用実態に合わせた運行体制をとることも可能だ。

 かつ、国や自治体が「ちゃんと運行を維持します!」という保証を行いつつ、運行を維持するための経費を補助する。単なる赤字の補填ではなく、今後も運行を続けるための補助であり、バス会社にとっては「運転手の確保」「上下分離(施設や車両を自治体に保有してもらい、税金の負担を減らす)」にかかる費用を相談できる。

 また「下手に利用者が増えるともらえる補助金が減る」という従来の補助制度と違って、乗客を獲得すればしっかり会社の利益になるため、バス会社の自助努力も期待できるだろう。

 他にも再構築の一例として、各地で実際に行われている「もともとあった小型スクールバス車両を活用」(石川県珠洲市)、「スクールバスと路線バスを統合・1台の車両で席を分けて混乗」(高知県三原村)、「工場の送迎バスに路線バスの機能を持たせ、一般客も乗車可能に」(静岡県湖西市)などの施策を参考に、重複のムダを省いた「アリモノ活用での再編」を行うのもいいだろう。

 この「エリア一括協定運行事業制度」が各地で適用されるなら、各地のバス会社が“第二・第三の金剛バス”となる前に、早めに救済ができる。そもそも金剛バスの場合は、06年に同社が大阪芸術大学の送迎バスから外されて収益源をなくしたり、労使関係で度々もめたり、不安な動きが目立っていた。そこから車両も建物も更新が進んでいなかった時点で「あれ? 将来的にマズくないか?」と、地元自治体が気付かなかったわけがない。

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