大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(2/4 ページ)

» 2023年10月05日 08時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]
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問題の本質と向き合わなかった自治体の責任

 そんな金剛バスに対して、エリア内の各自治体は、利用促進策を中心とした支援を行ってきた。

 例えば富田林市では、市内の総合公園 (サバ―ファーム)への路線延長に対する経費を補助。また、コロナ禍で乗客が半減した21年には、補助金を活用して市内バス運賃を期間限定で100円均一に。いずれも一定の利用者増加につなげた。太子町でも、支援を行った上で20年にバス路線の新設を行ったばかりだ。

 しかしこれらは、あくまでも「市が希望したバス路線の赤字補填」であり、運転手の養成や設備の建て替え、車両の更新(金剛バスは建物・車両ともに、全般的に相当年季が入っている)に直接つながるものではない。過去の富田林市議会の動きを見ていても、こういった補助を検討している形跡はない。拠出が増えないかたちでの増便や、交通系ICの導入など、税金を拠出する側としての要望を矢継ぎ早に行っており、これでは金剛バスの負担は増えるばかりだっただろう。

バス 金剛バスの事業廃止を告げる告知

 なお各自治体は、金剛バスからの申し出を今年5月に受け、補助金の拠出を申し出たものの断られ、廃業のニュースは9月に表沙汰に。各自治体とも3カ月後の全面廃止に向け、近隣の近鉄バス・南海バスと引き継ぎ交渉を行っているものの、準備期間の短さもあって苦戦しているという。こうしてみると、各自治体が金剛バスの抱える根本的な問題を直視せず「ちょっと乗客を増やせば、今後とも無条件で協力してくれるだろう」と甘い見立てであったことは否めないのではないか。

バス 路線バス業界は、コロナ禍のさなかには99・6%の会社が赤字経営だった(国土交通省資料より)

 国道交通省が発表した「令和4年度交通政策白書」によると、路線バス事業者はコロナ禍で利用者、経常収益が2割ほど減少。94.0%が赤字を抱える(令和5年版交通政策白書より)だけでなく、運転手の不足で運行の継続が厳しくなっている場合も多いという。

 さらに間もなく「2024年問題」によるさらなる人材不足は避けられない。今後、地方、都心部に限らず、“第二・第三の金剛バス”が出る可能性は大いにあるだろう。

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