ゼネコン大手の大成建設と日立グループは、仮想空間「メタバース」で建築物の意匠や構造を確認しながら、発注者と施工者が承認作業を進められるシステムの開発を始めた。建設業界では従来、紙の図面を用いた作業が続いてきた。システムの導入で「生産プロセスのDX」を図り、業務の効率化や働き方改革につなげたい考えだ。
大成建設と日立グループが開発を始めた「建設承認メタバース」のイメージ(提供:大成建設、以下同)
両社が開発に着手したのは「建設承認メタバース」というシステム。建築物の意匠・構造・設備などのデジタルデータをもとに、クラウド上に建築物のメタバースを構築する。関係者らはメタバース上で建物の完成形を確認できるため、施工者から発注者への説明などコミュニケーションが円滑になり、「建設承認」に向けて効率的に作業が進められるという。
「顧客はみな建築に詳しいわけではない。図面を見せて説明しても建物のイメージがわかず、合意形成に時間がかかる」
「従来の平面図に加え、仮想空間上に作った建築物を用いて顧客に空間や色を認識してもらうことで、建設承認をスムーズに得られる」(いずれも大成建設の担当者)
システムではバーチャル上で早期に建築物を竣工させることができ事業推進が円滑に進められるという
これまでは紙の資料を中心としたやりとりで、前の工程に戻って作業をやり直す手戻りや、工程の再調整――といった作業が発生し、関係者間の合意形成に時間がかかっていた。
- 発注者が仕上げの仕様を決定するためには、設計・施工側が設計図・パース・仕上げ見本カタログあるいは、現場に実物大の一部モックアップを作成し、承認してもらう必要がある
- 発注者は図面・カタログ・部分的なパースでは建物の仕上がりイメージを持ちづらく、意思決定に多大な時間を要する
- 設計・施工者側でも承認のための準備作業・議事録作成などに手間がかかる
- エビデンスとして議事録作成および承認印を関係者に押してもらう必要がある
システムを導入することで、計画されている建築物に関するデジタル情報が一元管理できる。発注者への説明から承認までをシステム上で完結させ、建築プロジェクトにおける業務効率の向上が期待できるという。
- 完成形の詳細なイメージを早期に共有することができ、施工に関わる関係者間の合意形成の早期化につながる。重大な手戻りの低減にもつながる
- 合意形成に必要なデータや、建設承認に至る議事録など、あらゆる情報も一元管理されていく
- 会議準備や会議、会議後の作業など一連のプロセスが効率化され、働き方改革、労働時間短縮にも貢献できる
システムは2024年半ばに現場導入を目指す。大成建設の担当者は「システムを導入することで建設業の次世代の業務スタイルを確立したい」としている。
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