実はもっと大事なことがある。日本ではジョブ型や職務が明確なジョブディスクリプションに関心が集まっているが、欧米のジョブ型も変容しつつある。
世界に拠点を持つ外資系人材紹介業のロバート・ウォルターズ・グループのトビー・ファウルストンCEOは、ジョブディスクリプションにはプラスとマイナスがあると指摘する。
「確かにジョブディスクリプションがあったほうが転職しやすい面があると思うが、一方で明確すぎると、入社後の仕事が退屈になってしまう。そのデメリットが原因で、転職してしまう人もいる。私たちロバート・ウォルターズでは企業の方に『ジョブディスクリプションを限定すると、採用のプールが狭くなってしまうので、候補者のプールを広く考えてほしい』と推奨し、『未来の伸びしろを考えて、2〜3年後に会社が求める仕事を担う人材を探すのがお勧めです』とアドバイスしている。それを考えると、あえてジョブディスクリプションを狭く定義しないことが大事だ」と語る。
実はこうした考え方は欧米では主流になっている。
三位一体労働市場改革分科会委員である東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授は、欧米でジョブ型の見直しが進んでいることに言及した上で「市場や技術の動きが非常に速くなって、旧来型の大学とか大学院で勉強したジョブが陳腐化し、価値が下がってしまう。その中で、ジョブの範囲をブロードバンドで広めていったり、1つのスキルだけではなくて、マルチスキル、マルチジョブという展開が見られていた」「今後、専門的なスキルの相対的な重要性が日本でも大きくなるとは思うが、併せて職務があまり狭くなり過ぎないようにして、変化に対応できるようにすること」が大事だと指摘している(前出・議事要旨)。
政府の指針は職務やスキルが明確化されているからジョブ型は転職に有利という一点だけで導入を推進するが、どうも世界の動きとは周回遅れという印象を拭えない。職務給の導入が本当に労働移動の円滑化につながるのか、政府が許容する「日本型職務給」の検証も含めて、再考する必要があるのではないか。
次回は、三位一体の労働市場改革のもう1つの柱である「成長分野への労働移動の円滑化」策について検証したい。
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