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名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ目標だけ独り歩き(1/4 ページ)

» 2022年10月12日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 2018年に働き方改革関連法が可決成立して以降、政府は、雇用労働に関するさまざまな施策を積極的に進めています。

 それぞれの施策には目標が掲げられています。目標は「施策を推進する法律を制定する」や「○○円の予算を投じる」など、分かりやすい言葉で具体的に示され、達成率などの数字で示される場合もあります。施策がお題目で終わってしまわないよう、具体的な目標を掲げることは必要なことです。

 しかしながら、目標が具体的で分かりやすいことが返って仇(あだ)になり、実効性が伴わないまま、目標だけが独り歩きしてしまっていると感じることがあります。

国の働き方改革はなぜ実効性が伴わないのか。画像はイメージ(ゲッティイメージズ、以下同)

 岸田首相は、9月22日に米国のニューヨーク証券取引所で行ったスピーチにおいて、これから日本が取り組む5つの優先課題を紹介しました。その第1番目に挙げられたのが「人への投資」で、まずは労働市場の改革を行うとしています。

 「日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」

 メンバーシップ型からジョブ型へ移行させるという方針について、各メディアも一斉に報じました。それにより、労働移動を円滑化するなど目指すべき姿も示しています。これらは新時代の労働市場のあり方をイメージさせるものだと思います。

 しかし問題なのは、メンバーシップ型からジョブ型へ移行させることに焦点が当たってしまっている点です。そこには大きく2つ問題があります。

中身が見えない首相の目指す「ジョブ型」

 1つは、ジョブ型とは何かが不明確な点です。いま、すでに多くの会社がジョブ型雇用を取り入れていると耳にします。しかし、ジョブ型雇用とは、本来欧米型の人事制度を意味するものであり、職(ジョブ)に縛られた雇用契約を結ぶ文字通りの「就職型」です。

 “職”に就いているわけですから、もしその職がなくなったり、その職を遂行できる技能が不足している場合は解雇の対象になりえます。逆にその職が存続し、遂行できる技能も有しているのであれば、会社の都合で勝手に配置転換などはできません。

 しかし、いまの日本の法制度はメンバーシップ型を前提に整備されています。メンバーシップ型雇用とは職に縛られたものではなく、会社の一員(メンバーシップ)になることを条件に雇用契約を結ぶ「就社型」です。

 そのため、いま就いている職がなくなったり、その職を遂行する技能が不足していたとしても、社員は“会社”に就いているわけですから、解雇の対象となるわけではありません。会社側には、配置転換などして解雇を回避する努力が求められます。逆に、もしその職を十分遂行できていたとしても、会社が必要だと考えれば、人事権を行使して配置転換させることも可能です。

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