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名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ目標だけ独り歩き(3/4 ページ)

» 2022年10月12日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 そこに、当時の宿題が残されたまま、ポッと出てきたのが日本では目新しかったジョブ型という言葉です。ジョブ型という名称を用いると、実際は古くからある制度でも新しい仕組みが生まれたように見えます。

 もし、法律改正など分かりやすい実績が示されれば、実態は変わらずともジョブ型に移行する施策を実施したかのように見えます。そして、そのことが逆にメンバーシップ型を維持するカモフラージュとなり得るのです。

 同様の事例はほかにもあります。同一労働同一賃金の実現などもその1つです。

名ばかりの「同一労働同一賃金」「産後パパ育休」

 同一労働同一賃金とは、文字通り同じ仕事をしているなら賃金も同じという意味です。しかし、働き方改革関連法で定められた同一労働同一賃金は、ガイドラインなどの議論を進める中で、同じ会社内で正社員と呼ばれる働き方と非正規社員と呼ばれる働き方の間にある不合理な待遇差を認めない制度という意味へと言い換えられてしまいました。

 本来の同一労働同一賃金であれば、会社が変わっても、雇用形態が違っても、年齢が違っても、同じ仕事をしていれば同じ賃金が得られることになります。当然ながら、年齢を根拠に賃金が変わる年功序列とは相容れないシステムです。

画像はイメージ

 しかし、働き方改革において同一労働同一賃金の名目で改正された法律では、会社が変わった場合は対象外です。また、あくまで正社員と非正規社員の間の待遇差に限定されているため、正社員など無期雇用の社員同士の不合理な待遇格差も対象外であり、正社員間に存在する年功序列も維持されることになります。

 もちろん、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を認めないこと自体は意義があることです。しかし、本来の同一労働同一賃金ではありません。それなのに、同一労働同一賃金という名目で法律改正したために分かりやすい実績となり、実態がカモフラージュされてしまいました。

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 また、10月1日より「産後パパ育休」制度が始まり注目を集めている男性の育休取得促進は、政府が2025年までに30%以上という目標を掲げています。

 男性の育休取得促進は大切な取り組みだと思いますし、目標はとても分かりやすく具体的ですが、育休を取得するだけなら数日だけでもカウントすることは可能です。さらに、育休取得といいながら育児をせず、家でゴロゴロして返って妻の手間を増やす夫でもカウントできてしまいます。

 ほかにも副業やテレワークの推進、女性管理職比率30%など、ガイドラインが示されたり、数値目標が掲げられているものがいくつもあります。しかしながら、必ずしも実効性が伴っているとは言えません。その背景として、ガイドラインの提示や数値の上昇など、一見分かりやすい実績によるカモフラージュが、免罪符のような役割を果たしてしまっている面があるのです。

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