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名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ目標だけ独り歩き(4/4 ページ)

» 2022年10月12日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 冒頭で紹介したスピーチで、岸田首相は女性活躍の重要性を説いています。女性活躍は重要だと思いますが、「女性がキャリアと家庭を両立できるようにしなければならない」としてしまうのは、男性の育休取得を推進する法律が施行されている現状において違和感があります。

 これでは暗に「政府は女性活躍推進のさまざまな施策を打ちますが、キャリアと家庭の両立は女性だけの問題なので男性は対象外ですよ」と伝えているかのようです。政府からのメッセージが、キャリアと家庭の両立は女性だけが考えるものだという裏づけになってしまえば、改革はむしろ後退してしまいます。

画像はイメージ

 なるべく多くの国民にメッセージを届けようと、政府の施策や方針が分かりやすい言葉と指標を用いる傾向にあることは致し方ないことかもしれません。しかし、それがむしろカモフラージュになって現状維持の後押しになってしまっている面が少なくないことを肝に銘じる必要があります。意義ある施策を実効性あるものにしていくためには、具体的で分かりやすい実績目標を掲げるだけでは不十分です。

「形だけの実績づくり」から脱却を

 もし会社が働きがいやエンゲージメントを高めたいのなら、採用人数や離職率など一見分かりやすい目標を立てても、それだけで効果を測ることはできません。社員に直接サーベイを行って実情分析する必要があります。

 それと同様に、政府が労働移動の円滑化を進めるのならば「希望に沿った仕事が見つけやすいか」、女性活躍を推進するならば「性別に関係なく活躍できる社会になっているか」といった定性的な実感値指標なども計測して、施策の効果を総合的に評価・検証する必要があるはずです。

 岸田首相は10月3日の所信表明演説で、構造的な賃上げの実現を目指すと宣言しました。そこに“ジョブ型”の文字はありませんでしたが、5年間で1兆円の「リスキリング投資」や「同一労働同一賃金」の徹底などにも言及して、労働移動円滑化に向けた指針を来年6月までにまとめるとしています。

 しかし、リスキリング投資や同一労働同一賃金は、あくまで手段に過ぎません。目的は構造的な賃上げや労働移動円滑化の実現です。

 指標の客観性を盾に、手段を講じたかどうかという実績だけ見て「目標を達成した」などと評価しても、目的が果たされたかどうかは分かりません。形だけの実績づくりに終始せず、いかに賃上げ構造を作り上げたかや、労働移動が円滑化したかなど、目的と効果にフォーカスして施策を進めていく必要があるのです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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