NHKネット配信解禁 反発する民間メディアの“歯切れ”の悪さ(2/4 ページ)

» 2023年11月07日 06時30分 公開
[大関暁夫ITmedia]

郵政民営化との比較で分かる歯切れの悪さ

 しかし、それに付随して書き連ねている主張は、各論的な反論に終始している感が強く、どうも歯切れが悪く感じられはしないでしょうか。

 筆者は90年代後半に銀行の業界団体である全国銀行協会(全銀協)に出向して、郵政民営化提言チームで小泉純一郎事務所を後押ししつつ郵便貯金の民業圧迫阻止に注力し、最終的に小泉内閣時代の郵政民営化実現につなげたという経験を有しています。

 あの時にわれわれが特に大切にしたことは、「あれをやるな」「これはダメだ」の反論主張ではなく、「最終的にどうするべきか」の具体策を明確に提示することだったのです。

 それに照らすと今回の議論における民間メディア各社の主張は、「あれをやるな」「これはダメだ」ばかりで、「どうしろ」と言う着地点を示す具体策提示に欠けているのです。なぜ「NHKは民営化しろ!」と言わないのかという、肝心の着地点が見えない単なる苦情に終始してしまっているのです。主張の歯切れの悪さは、そこにあるのです。

「報道」「教育・教養部分」切り離し民営化の可能性

 もちろん、報道の中立性や災害報道の正確性、速報性の確保、教育・教養情報取り扱い必要性などの観点から、NHKの完全民営化は難しいという意見はあるでしょう。

 ただ、報道や教育・教養部分を切り離しての分割民営化は十分に可能であり、これを軸にしつつ具体策として「こうすべき」という主張はできるはずです。報道と教育・教養部分を切り離しての分割民営化をすれば、月額1225円の地上波受信料は最低でも半額以下、いや確実に500円以下になるのではないかと思うわけで、国民の家計的にもメリットは大きいはずなのです。

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民間メディアが分割民営化を主張しない理由

 しかしそれを民間大手メディア、特に民放は決して口にしません。それは、民放と同じようなことをやっているNHKの娯楽制作部門が、民営化されては困るからなのです。要するに、民営化すれば強力なライバルが一社増えるわけで、ただでさえ先細りのテレビ業界の一層のレッドオーシャン化は確実です。

 しかもNHKの番組制作力をもってすれば、多くの既存スポンサーがあっさり奪われてしまう可能性すらあるからです。新聞社が民営化を口にしないのも、民放各社が皆新聞社系列であるという理由があるからなのです。

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