NHKネット配信解禁 反発する民間メディアの“歯切れ”の悪さ(1/4 ページ)

» 2023年11月07日 06時30分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 NHKのインターネット配信業務(以下ネット配信)に関して、総務省の有識者会議が「必須業務」への変更を認め、テレビを持たずネット配信を視聴する人から一定の費用負担を設けるべき、との提言書を公表しました。これに対して、新聞、民間放送各社は一斉に反対の姿勢を示し、一見対立の構図が強まっていますが、一連の民間大手メディア各社の反対姿勢には、どこか歯切れの悪い部分があるようにも感じられ、かつての郵政民営化推進時にみられたような盛り上がりには欠ける印象があるのも事実です。それはなぜなのでしょうか。

photo NHK(提供:ゲッティイメージズ)

 提言書は総務省が8月末に開催した「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」(第22回会合)で公表されました。従来、「補完業務」に位置付けられていたNHKのネット配信。「NHKインターネット活動業務実施基準」によると、その予算は年額200億円が上限とされています。

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 一方で、NHKの受信料収入は年間約7000億円です。テレビ受信機にひも付けされる受信料に支えられたNHKとしては、近年の若者の急激な「テレビ離れ」への危機感を背景に、ネット事業を必須業務に取り込むことで膨大な予算をネット業務に振り分け、この危機を乗り越えていこうと考えているのです。有識者会議は、NHKがその方針を実現するために、総務省に働きかけたとみられます。

photo 総務省

民間メディアは「民業圧迫」と反発

 民間でNHKの同業者となる新聞業界、放送業界は、これまでも黙ってはきていません。この有識者会議に対して、主に「民業圧迫」という観点からたびたび、NHKの業務拡大に明確な反対姿勢を示してきました。今回の提言書公表を受けて、日本新聞協会メディア開発委員会と日本民間放送連盟が遺憾の意を表明するとともに、新聞各社も一斉に紙面上でこれに対する反対意見を述べています。

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 各社の論調に大きな差異はなく、主に肥大化および民業圧迫懸念、新たな費用負担に伴う放送法改正の必要性とその妥当性に対する疑問、などについて議論不足を指摘しています。代表例として、読売新聞が紙面上で展開した主張は以下の通りです

  • 適正な受信料制度の在り方や民間企業との公正な競争の確保といった重要な論点を残したまま、NHKがインターネット事業を野放図に広げることは看過できない。
  • 放送とネット業務を2本柱とするのであれば、受信料制度が現状のままでいいのか。
  • ネット業務を必須業務とするには、放送法の改正が必要。NHKの運営や他のメディアにも多大な影響を及ぼすことになるが、有識者会議が議論を尽くしたようには見えない。 
  • 税制面で優遇を受けながら、NHKがネット事業を拡大すれば、立ちゆかなくなる報道機関が出て民主主義を支えるメディアや言論の多元性を損ないかねない。
  • 娯楽の乏しかったNHK創設時1950年から70年以上が経過し、メディアや娯楽は多様化している。NHKで民放のような娯楽番組が増えているが、これらが必要なのか。

(以上、一部抜粋)

 読売新聞の主張にみるように、民間大手メディア各社がNHKが現状の経営体制のままネット業務を必須業務化することへの反対意見は、「民間の自由な競争原理を損なう」という観点から納得性が高い主張であると思います。

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