33都道府県に流通する弁当は“駅弁”なのか 吉田屋食中毒の元凶スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2023年10月24日 09時54分 公開
[窪田順生ITmedia]

経営者が逃げなかった

 では、吉田屋の会見はどこがよかったのか。大きいポイントは「原因」と「責任」を明確にして、経営者が逃げなかったことだ。

 食中毒の原因は「県外の外部委託業者の製造した米飯」としながらも、「製造された米飯を受け入れ、そして独自の判断により冷却し、それを使用した。そのこと自体が、今回の食中毒を発生させた大きな要因」として「手前どもの責任は本当に大きいと痛感しています」と述べた。

 しかも、その責任を「現場」に押し付けることなく、経営者である自分の責任だと断言して涙まで流した。「そんなの当然だろ」と思うかもしれないが、謝罪会見の事前練習を手伝うと、こうしたことのできない経営者はかなり多いことに驚く。なんやかんやと言い訳を並べてしまうものなのだ。

 大手外食の多くが、異物混入があると「原料を納入している業者が悪い」と言わんばかりに、「これからは原料を厳しくチェックします」と取引先に責任を転嫁するのとは雲泥の差だ。

 「発生から会見まで35日も経過している」というマイナス面は確かにあるが、吉田屋は9月20日の段階で、社長名義の謝罪文をWebサイトにアップして、「原因判明次第お知らせいたします」と告知している。保健所の調査や、場合によっては警察も介入する可能性がある事故は、会見で会社側が好き勝手なことをしゃべるわけにはいかない。

 10月16日に保健所から発表があり、18日には吉田屋が改善報告書を保健所に提出した。理想はこの日に会見を開くことではあるが、521人の被害者にその結果を報告するとなれば2〜3日はかかる。つまり、ここまで会見が遅れた「客観的に見ても納得できる理由」があるのだ。これをしっかり説明したので炎上していない。

 そんな吉田屋の危機管理だが、一点だけ足りなかったことがある。それは今回の大規模食中毒の「元凶」ともいうべき問題を、吉田屋がスルーしてウヤムヤに幕引きをしたことだ。それは端的に言うと、「33都道府県に流通する弁当は“駅弁”なのか」問題である。

人気の「八戸小唄寿司」
駅弁「津軽海峡 海の宝船」

 ご存じのように、創業明治25年(1892年)の吉田屋は多くの駅弁コンテストなどを受賞した人気「駅弁メーカー」で、「八戸小唄寿司」や「津軽海峡 海の宝船」などで知られている。そして、それらの有名駅弁は八戸駅や東北新幹線の停車駅だけではなく、北海道、大阪、そして遠くは九州まで輸送・販売されている。全国の有名百貨店やスーパーなどの催事でも売られる。

 実際、今回の食中毒を出した駅弁は2日間で2万2100個あまりが八戸の吉田屋本社で製造され、そのほとんどが商社を通じて1都1道1府30県に流通していたという。

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