33都道府県に流通する弁当は“駅弁”なのか 吉田屋食中毒の元凶スピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2023年10月24日 09時54分 公開
[窪田順生ITmedia]

食中毒につながった遠因

 これが真っ当な弁当製造販売者の品質管理の感覚である。しかし、吉田屋はその感覚がぶっ飛んでしまって、八戸で製造した「つくりたて弁当」を、遠く離れた関西や中国、九州まで輸送して売っていた。

 なぜそんな身の丈に合わないことをしてしまったのかというと、駅弁だからだ。駅弁というローカル食材を用いた弁当をウリにしている以上、八戸でつくらないわけにはいかない。

 一方で、吉田屋の駅弁は多くのコンテストで受賞しているので、ローカルマーケットだけではなく、全国展開も見込める。かくして、八戸で製造した弁当を、商社が全国に流通させるというかなりリスキーな「駅弁ビジネスモデル」ができあがったというわけだ。

 つくりたての弁当を全国で売るなと言っているわけではない。そこまで全国に展開したいのなら、大阪や福岡などに製造拠点をつくるべきだと申し上げているのだ。「空輸しているから」「新幹線駅に近いから」といった理由で安心だろうと思ったのかもしれないが、輸送コストはタダではない。

 八戸駅で売る弁当と九州で売る弁当を同じ価格にするには、どうしてもこのコストを圧縮しなければいけない。そうなると普通に考えれば、大量生産・大量販売へかじを切るしかない。八戸で売るもの、東京で売るもの、福岡で売るもの、といった感じで受注はどんどん膨らんでいく。

吉田屋の経営理念
営業内容

 しかし、吉田屋の製造拠点が拡大している痕跡はない。Webサイトの「沿革」を見ても、2008年に有限会社から株式会社に変更以降、販売網が広がったとか、弁当グランプリの金賞を受賞していたとかの記述は山ほどあるが、「製造工場を拡大した」とか「製造拠点を新設した」という情報はゼロだ。

 これが事実なら現場は相当疲弊していたはずだ。人は疲れると、やるべきことができなくなる。吉田社長も会見でこう言っていた。

 「納入される米飯について、発注時に温度指定をしていたにもかかわらず、受け入れ時、温度の測定を初日はしていなかった。盛り付け時までそのままの状態で保管していた。盛り付け時に温度の高いことに気づき、自社の判断で冷却して使用した」(青森テレビ 10月21日)

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