リテール大革命

「口コミ高評価で値引きします」は法律違反 「ステマ規制」を弁護士が解説規制

» 2023年10月24日 12時19分 公開
[株式会社movITmedia]

 消費者のお店選びに大きな影響を与える口コミ。お店に行くと、店員から口コミ投稿を呼びかけられたことが一度はあるのではないでしょうか。

 一方で、10月から景品表示法にいわゆる「ステマ規制」が追加されました。ステマ規制とは「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す」ような、「消費者の自主的かつ合理的な商品・サービスの選択を妨げる」広告を規制するものです。

「口コミ書いてくれたらクーポンあげます」は合法か?(写真はイメージ、以下同)

 例えば、店からの以下のように客へ呼びかけることは違法なのでしょうか?

  • 「★5を投稿してくれたら、お会計から100円引きします!」
  • 「口コミを投稿してくれたら、クーポンをプレゼントします!」

 「知らなかった」では済まされない判断のポイントについて、弁護士に聞きました。

 監修:LM総合法律事務所 弁護士 白井 佑

法律違反になる可能性が高い……ではどうすれば?

――お店が客に対して「口コミ高評価で値引きします」といった呼びかけを行うのは、法律違反となるのでしょうか?

 結論から言えば、景品表示法に違反する可能性が高いです。

 令和5年内閣府告示第19号により、2023年10月1日から景品表示法において「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が規制されました。

 消費者庁の「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(以下「運用基準」)は、次のような場合に「事業者の表示」に該当するとしています。

 事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合

――第三者(今回の場合口コミを投稿する人)の意思のみではなく、事業者が何らかの形で表示内容の決定に関与したもの、ということですね。

 はい。その上で、例示として、次のような場合は「事業者の表示」に該当しないとされています。

 ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやりとりが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合

――ECサイトのレビュー投稿に対する謝礼としてクーポンなどを配布する場合でも、投稿の「内容」が自主的なものであれば、法律違反にはならないということですか?

 そういうことになります。ただ注意してほしいのは、この場合に投稿の「内容」が自主的と認められる前提として、「投稿(表示)内容について情報のやりとりが直接又は間接的に一切行われておらず」という条件があることです。

 最初の例「口コミ★5投稿で100円引き」では、「口コミ★5投稿で」と投稿内容を一部指定しています。

口コミの「内容」を指定してはいけない

 これでは「投稿(表示)内容について情報のやりとりが直接又は間接的に一切行われておらず」とは言えず「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる」ことから「事業者の表示」に該当すると思われます。

 そのため、投稿内で「『口コミ★5投稿で100円引き』の案内で投稿しています。」などと表示して事業者の表示であることを明瞭にしない限り、今回のケースは景品表示法に違反する可能性が高いのです。

――「口コミ★5投稿で」と投稿内容を一部指定することが問題とのことですが、「100円引き」や、あるいは「クーポン配布」のように謝礼を提供すること自体は問題ないのでしょうか?

 景品表示法では、謝礼の提供によって直ちに「事業者の表示」に該当すると判断されるわけではありません。そのため、今回のケースにおいては「口コミ★5投稿で100円引き」ではなく「口コミ投稿で100円引き」のようにすることで、違反リスクを軽減できます。「クーポン配布」も同様です。

 もっとも、謝礼を提供すると「事業者の表示」の判断においてマイナスの事情として考慮されますし、その他の客観的な状況を踏まえて「事業者の表示」に該当すると判断される可能性はあります。

――「口コミ投稿で100円引き」にしても、場合によっては「事業者の表示」に該当する、つまり法律違反となる可能性も否定できないわけですね。

 そうですね。直ちに「事業者の表示」に該当すると判断されるわけではありませんが、違反リスクはあります。安易に実施することはおすすめできません。

 また景品表示法から離れますが、謝礼の提供については媒体側の規約の問題もあります。

 例えば、Googleのポリシー・ガイドラインは「企業が割り引きや、無料の商品やサービスと引き換えに投稿を促したコンテンツ」を禁止しています。謝礼の提供を検討する際は、媒体側の規約の確認も必要となるでしょう。

Googleの口コミに関するポリシー・ガイドラインについて

 Googleのポリシー・ガイドラインについて、もう少し詳しく見てみましょう。

 Googleは「口コミの投稿を呼びかけること」自体は禁止しておらず、むしろ推奨しています。一方、口コミの投稿をお願いする際に「特典の提供をする」「高評価な口コミを依頼する」「低評価な口コミを投稿しないようお願いする」「評価を集めた上で、高評価な口コミだけを選んで表示する」といった行為を禁止しています。

禁止および制限されているコンテンツ(※一部抜粋)

  • 実体験に基づいていないコンテンツの投稿に対して報酬を支払ったり、そのような投稿をするよう促したりする行為。
  • 否定的なクチコミの投稿を妨げたり禁止したりする行為。肯定的なクチコミを顧客から募ったりする行為。
  • 企業が割引、無料の商品やサービスと引き換えに投稿を促したコンテンツ(料金の割引、商品やサービスの無償提供などのインセンティブと引き換えに、否定的なクチコミの修正または削除を依頼する行為も含まれます)。

 なお、上記のGoogleのポリシー・ガイドラインに関して「『口コミ投稿に対して謝礼の提供を行うこと』を禁じているのはあくまでGoogleのガイドラインであって、景品表示法の違反とならないから、こっそりやってもいいだろう」と判断する企業もあるかもしれません。

 しかしガイドラインに違反した口コミは、審査を経てGoogleマップやGoogle検索上に表示されなくなります。また悪質な場合は、GoogleビジネスプロフィールやGoogleアカウントそのものが使えなくなるといった重いペナルティもあるため、全く推奨できません。

 最後に、Googleの口コミの信ぴょう性についての言及を紹介します。

 クチコミは正直で客観的である場合に、見こみ顧客にとって有益な情報となります。肯定的なクチコミと否定的なクチコミの両方が投稿されている場合に、顧客はそれらのクチコミが信用できると感じます。

 口コミを操作しようとするのではなく、商品・サービスそのものを良くすることで、自然な形で高評価が集まっていくようにすることが、中長期的に集客していく上での根本的な解決なのではないでしょうか。

著者プロフィール:株式会社mov

photo

 インバウンド業界最大級メディア「訪日ラボ」、MEO・口コミ対策を中心とした店舗ビジネス向けメディア「口コミラボ」運営。

 データ分析とデジタルマーケティングに強みを持ち、訪日ラボでは観光・インバウンドの最新トレンドを、口コミラボでは飲食・小売業界など実店舗の集客販促・マーケティングに関するノウハウをそれぞれ配信している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.