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行政に任せるな 伝説の経営者に聞く「寂れた街の再生術」持続可能な街作り(2/2 ページ)

» 2023年10月28日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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補助金ベースのやり方がダメな理由

――熱海という立地だと、新幹線で東京への通勤も現実的です。これは言わば富裕層をターゲットにしているのでしょうか。

 富裕層は魅力があれば必ず移り住んできますから。直接にはターゲットにしていません。富裕層が住みたくなるような魅力をどう作れるかが大事だと思うんですよね。ただ、熱海のように、東京から40分圏内という打ち出し方は富裕層にも訴求できると考えています。これは東京だけでなく、大阪や名古屋、札幌など大きな経済圏を持っている都市近郊だったら通用します。大都市周縁部は今寂れ方がひどいんですよ。熱海のやり方は他の大都市周辺でも生かせると思っています。

――今さまざまな地方創生のアプローチがありますが、観光に頼るところも多いです。一方で不動産という切り口はまだそんなに認知されていないと思います。不動産による地方創生についてどう期待していますか。

 一番は物の見方をPL(損益計算書)で見ないことです。不動産はブランディングによる「のれん代」や含み資産がすごく重要で、これが信用になります。ここにお金が入ってきます。ですから、年度単位のPLで見られると、不動産は機能しません。もう少し含み資産に目を向ければお金は集まってくるし、数字の組み立て方も違ってくるはずです。

 だからわれわれは含み資産を一生懸命作ることが大事です。どうすれば含み資産、土地の価値が上がるかどうか。売却が目的ではないですが、売っても利益が出る状況を作ることは大事だと思うんです。

――その含み資産の上には今、全国の自治体が取り組んでいるシティプロモーションによる地域ブランディングの面も大事になってくるわけですね。

 ブランディングやその土地に住んでいる人たちの魅力、彼らが発信している土地の魅力が大事ですね。人の魅力と土地の魅力、この両方がマッチしたときに、価値が上がっていくのだと思います。

――やはり、いかに定住人口を増やすかを考えなければ、地方創生にならないわけですね。ここでよく見落とされがちなのが、世の中には何年かごとに住む場所を変える人が一定数います。こうした人たちは引っ越してきてはくれるのですが、数年後にはまた別の自治体に移り住んでしまいます。どのようにつなぎ止めるべきだとお考えですか。

 政府は補助金を活用して定住人口を増えそうとしていますが、このやり方だと「つなぎ止める」部分までの効果がないと思います。補助金の対象とならない年以降もその人たちを引きつける魅力がないと、住む場所にこだわらない人はみんないなくなってしまうと思います。

――観光にせよ移住支援にせよ、一過性で終わってしまっては元も子もありません。 

 国も自治体もそうですけど、補助金で事業をやることにも懐疑的です。例えばガソリンもそうですね。ガソリンってかなりのウェイトで税金を払っているわけですよ。だけど今では、税金込みで上がっている値段を下げるために補助金を出して下げています。今190円になっちゃった価格を175円にするための補助金を出すわけです。だったら、税金を取らなきゃいいじゃんと思いますけどね。どうして補助金になっちゃうのかと思います。

 これは一例ですが、こういう考え方のベースのやり方では駄目だと思います。みんな補助金補助金というけど、自分たちが出しているお金なんだから、出す前のところでよく考えて制度を作ってほしいですね。そして今度は補助金の取り合いをしています。これではとても持続可能なものでなく、駄目だと思うんです。

――行政主導の地方創生は補助金頼みというマインドが根深いと思います。対するACAOのような民間主導の地方創生では、何を心掛けていくべきなのでしょうか。

 一番大事なことは、無駄なお金を払っていないかどうかですよね。なるべくダイレクトにヒットするお金の出し方をすることが大事。そういう意味では、今回のCOZUCHIさんのクラウドファンディングでは10万円から投資できましたから、とても面白いと思います。

photo COZUCHIの会見にて

――近年では、自分の実家がある故郷とは別に、自分から能動的に見つける「第2の故郷」を模索するライフスタイルも提唱されています。

 そうなんです。この考え方で自分の居場所を多くの人が探すようになれば、その人は数年でいなくなる人じゃないわけですね。

――民間主導でその地域の不動産価値を上げることによって、それで人を呼ぶ流れだと思います。このプロセスで何を一番重視すべきなのでしょうか。

 一番は、入り口の段階でリスクだという意識を減らすことですね。これは誰でもそうですが、何か新しいことを始めようとするとリスクを気にします。この点、COZUCHIさんは1万円や5万円といった少額から不動産投資ができますから、ここのハードルが低いわけですよね。

 まとめてドーンといろんなものをやろうとするから、リスクを考えてしまうわけです。僕はもっとゲームのように楽しくお金を出して、この出したお金に夢を描けるようなお金の集め方と、開発をしていくことが大事なんだと思います。

――今後中野さんが考えている地方創生のビジョンについて教えてください。

 基本的にはこの熱海をベースに地方創生を進めていく考えですが、適所で価値を上げるためのクリエイティブが必要なんですね。一番のポイントは、地域にプロデューサーがいるかいないかです。外部の断片的な専門家がいても十分ではないと思います。

 専門家の力は大事なんですが、そのアイデアやアドバイスを元に、上手に組み立てをして地域で人材配置できるプロデューサーがいないと、トータルとしてはまとまりにくい。アイデアは外から呼ぶことができますが、この地域のまとめ役は地域で育成していく環境を作っていかないといけません。

――どういった人がプロデューサーにふさわしいのでしょうか。

 人懐っこいこと。それから愛嬌がちゃんと振りまけること。それからもう一つは、人とのリスクに対して飛び込んでいける人。こういう人がものすごく大事。そしてその人が「こうやろう」と思ったらその地域にベースを置いてくれること。その人の拠点が例えば東京にあって、用事の度に時々熱海に来るのでは駄目です。

 こうした要素を持ったプロデューサーがその地域にいてもらえれば、その街は必ず良くなる。それは学歴とかそういうものではないんです。

――地方創生の成功例を見渡しても、うまくいっている事例はその地域にまさにプロデューサーとなるような人がいるかどうかがカギとなっています。そういう人材が「地域にたまたまいた」では駄目なわけですね。

 それでは駄目だと思います。こういうプロデューサーになれる人材は国を挙げて育成していかねばなりません。

photo

――どうすれば地域プロデューサーを育成できますか。

 単純に言うと、人は評価される、期待されると育つし、その気になるんですよ。国がこの目線でもっと制度面でスポットを当てていかないといけません。これは研究など技術的な分野に対しては広くやれているのですが、こうした地域貢献の分野においても評価できる制度を作るべきだと思います。

――民間主導だとどんな取り組みができそうですか。

 まさに僕らのこの取り組みだと思います。自分たちがプロデューサーとなって、熱海の街を盛り上げていきたいと考えています。熱海以外にも、いくつかの街でトライしようと思っています。

 繰り返しになりますが、税金は補助金として使うのではなく、もっと他のことに使ってほしいと思います。われわれが一生懸命プロデューサーになって、民間主導でお金を回して取り組むことが一番大事なんだと思います。活動を続けていくうちに熱海で次のプロデューサーが育つかもしれないし、われわれの組織の中からプロデューサーになりそうな人が育ってくれればそれでいいかもしれない。これはもう地道に続けてやるしかないですね。

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