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行政に任せるな 伝説の経営者に聞く「寂れた街の再生術」持続可能な街作り(1/2 ページ)

» 2023年10月28日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 日本では人口減社会の中、「地方創生」が叫ばれている。政府は2015年に地方創生担当を創設し、国を挙げた対策に取り組んだ。近年では外国人観光客の増加や、キャラクターやアニメ作品を活用した地方創生など、観光による創生に期待する向きもある。

 だが、観光による地方創生は一過性のものに過ぎず、持続可能なものなのか疑問の声もある。実際に観光に力を入れていた自治体でも、近年では移住政策に注力する自治体も出始めた。特にコロナ禍以降、働き方が多様化し、移住が容易になってきている。

 こうした段階になると、注目されるのが不動産だ。静岡県熱海市に拠点を置くリゾート開発企業のACAO SPA & RESORT(以下ACAO)では、不動産投資による熱海市の地方創生を目指している。23年9月には東方文化支援財団、LAETOLIの運営する不動産投資クラウドファンディングサービスの「COZUCHI」とともに「熱海 ACAO FOREST Parking プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトには1700人弱のビジネスパーソンなどが出資し、約5.4億円の資金調達をした。

 不動産投資クラウドファンディングでは、インターネットを介して、出資者を募集し、事業者が不動産事業を手掛ける。そして、不動産から得られる賃料や売却利益を投資家へ還元する。COZUCHIでは1万円から投資を募り、物件の選定・管理もプロが担う。このスキームを活用することで、より多くの人がプロジェクトに参加でき、出資者は利益を追求しながらも地域活性化や社会課題解決にもつながる不動産投資を実行できる。調達した資金は、リゾート開発だけでなく、熱海市上多賀エリアの開発資金に充てるとしている。

photo COZUCHIの仕組み

 つまり主眼としては、不動産による地方創生を念頭に置いたものだ。民間主導の地方創生について、東方文化支援財団代表理事でACAO代表取締役・CEOを務める中野善壽さんに、ビジョンを聞いた。中野さんは、熱海の「ホテルニューアカオ」や「寺田倉庫」、「台湾のコングロマリット企業2社の百貨店部門」の経営改革を手掛け、「伝説の経営者」とも呼ばれる。

photo 1944年生まれ。伊勢丹、鈴屋を経て台湾企業3社の経営陣の一人として経営に携わる。 その後、2011年 寺田倉庫へ。2018年モンブラン国際文化賞受賞。 1991年から台湾在住。2015年より中華民国(台湾)文化部国際政策諮問委員(顧問)現任。現在は、東方文化支援財団 代表理事、ACAO SPA & RESORT 代表取締役・CEO。

寂れた街をどう再生するか

――熱海のように、かつて温泉や観光で栄えていた地域も、バブル崩壊以降は衰退してしまった都市が少なくありません。寂れた街をどう再生するかは、熱海だけでなく日本全体における課題と言えます。何が今必要なのでしょうか。

 基本的にはより多くの人が参加をして創生するベースがないと、地方創生は長続きしません。地方創生はツーリズムだけをターゲットにやるのではなく、そこに住んでいる人がどのようにするのかがすごく大事だと思います。例えば祭りは、観光で集客するためにやっているのではなく、地元の人たちが盛り上がることに意義があります。お祭りを機に熱海出身の人が帰省するなど、そこが出会いの場になることによって、結婚のきっかけにもなります。そうすると子どもが生まれて100年、200年続く持続可能な厚みが生まれていきます。

 でも今では祭りの精神が見せ物になってしまっています。僕は熱海をそういった見せ物街にはしたくない。だからみんなで考えて、より多く人口を増やして、なおかつそこで、何か文化を作り上げていくことによって、ちゃんとした地方創生ができることを念頭に置いてやっています。

――お祭りで一時的に外部から人を呼ぶのではなく、定住人口を増やすことに重点を置いているように思います。

 祭りも定住人口を増やす一つの手段だと思うんですよね。外から移住者を募るだけでなく、熱海や周辺の街から一度出ていった人たちが、再度熱海に住みたい、戻りたいと思えるようになることが大事だと思います。

――熱海はかつて東京からアクセスの良い保養地として栄えました。ですが、今では空きテナントが大量に出るなど寂れてしまっているようにも思えます。中野さんはその原因をどう見ていますか。

 単純です。外から来る人だけをターゲットにしたからですよ。そこに住む人のための熱海じゃない。日本の景気が後退し魅力も薄れ、来る人が少なくなったらもう終わりですよね。

――一過性では駄目なわけですよね。現在さまざまな地方都市がシティプロモーションをし、移住者を募っています。その中でACAOでは何をどう打ち出していくべきとお考えでしょうか。

 住む上で必要なのが教育です。そして熱海に教育のイメージがあるかというとありません。そこでわれわれが今思っているのは、熱海に特色のあるインターナショナルスクールを作れたらいいと考えています。

 また、これは僕の勝手な妄想ですが、駅ビルをお土産屋だけでなく、学童保育の施設にしたらいいと考えています。そうすれば、東京に通勤するお母さん、お父さんにとってものすごく有意義な立地にある学童保育になるんです。学童保育って大抵不便なところにありますから、駅ビルにある学童保育は重要ではないかと思っています。

 他には、われわれは「ATAMI ART VILLAGE(アタミアートヴィレッジ)」を展開しています。これは熱海を国際的なアーティストが住むような街にしようとする取り組みです。これと学童保育とインターナショナルスクールをリンクすることで、学童保育でアートや多様性のある文化に目覚め、国際的な多言語に壁を持たない子どもたちが育つようになると思うんですね。そうすれば、きっと子どもたちのために移住してくるパワーカップルも増えるのではないかと思っています。

photo 「ATAMI ART VILLAGE(アタミアートヴィレッジ)」

――特に中等教育の充実ぶりは大事ですよね。教育だけでなく、働ける場所がなくて人口流出している側面があると思います。どうすれば底上げが可能でしょうか。

 事業の多様性だと思うんですよね。企画してお金を使える人と、パトロンが共に住む街がなければ駄目だと思います。この両者がその場所で「何かできることはあるか」という目線で考えればビジネスが生まれます。熱海には3000を超える空き物件や未活用の土地がありますから、お金があってそれを事業にする人がいれば経済圏を作れます。そうすれば遠くまで行かなくても、例えば家庭の主婦や若者が働ける場所を創出できます。

 お金を出す人と、お金は無いけれども企画してお金を使える人のマッチングができる街になることで、お金が回ると思います。そこの形を作れるかどうかがすごく大きくて、だからこそ熱海で投資を募っています。お金を出す人と、企画してお金を使える人。この2つの柱が熱海創生の一番のポイントになると思います。

――「熱海 ACAO FOREST Parking プロジェクト」では、1万円から始められる不動産投資クラウドファンディング「COZUCHI」を活用することで約5.4億円の資金調達を実現しました。モデルケースにもなりそうですが、今後どのような広がりを期待しますか。

 僕はこのクラウドファンディングのやり方もクリエイティブだと思うんですよね。ただ、われわれは今20万坪の開発で考えている妄想を達成しようと思うと、700億円ぐらいのお金が必要なんです。熱海市内の開発にも、恐らく600億円以上の資金が必要になるだろうと考えています。ですからまだこれからですね。

 さまざまなお金の集め方があると思いますが、いずれにせよ、そこに利回りがありそうなマーケットがあれば、必ず皆がその場所でいろんなことを考えてくれるようになります。これが僕の狙いです。地方都市でも1000億円以上のお金がクラウドファンディングを核に集まる仕組みを考えていくことがすごく大きなことだと思います。

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