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「ウチは関係ない」で済まされない 人的資本経営の本質とポイント上場企業以外も取り組むべきテーマ(3/3 ページ)

» 2023年10月31日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]
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伊藤忠商事

 企業理念「三方よし」に基づく人材戦略における重要指標の開示をしています。具体的には、創業地訪問に参加した人数数(3027人)、1人当たりの人材育成投資額(39.6万円)、がん特別検診対象者受診率(93.1%)などを明らかにしています。

ENEOSホールディングス

 脱炭素・循環型社会への移行に伴う新規事業を担う人材育成の一環として、所属はENEOSホールディングスとしつつ、ベンチャー企業で1年間働ける「レンタル移籍制度」を導入しました。

サッポロホールディングス

 評価制度における「考課ランク」を廃止し、ランク付けのない「ノーレーティング」に改定しました。評価では「事業目標への貢献度」「自発的挑戦」「変化スピード」などを重視し、頻繁に1on1を実施するなど、支援型マネジメントスタイルに変革を果たしています。

日清食品ホールディングス

 グループ理念で掲げている“EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)”の実現に向け、理想の組織像だけでなく、各社員に求める内容をKPI・実績値とともに提示。自律的なキャリア形成にも目を向けており、社員のキャリア実現度もKPIとしているようです。

資生堂

 D&Iを経営戦略の柱と考え、女性活躍施策を推進しているのが資生堂です。30年までに女性管理職者比率50%の達成を目指す上で、役員の担当領域ごとに女性管理職比率目標を設定。経営層が目標達成にコミットする仕組みを整えています。


 ここで紹介した事例はあくまで一例です。しかし、これらの事例だけでも人的資本経営がいかに経営全般にわたるテーマで、かつ社会的にも求められている重要なものかが分かります。つまり「人材のことだから、人事部が担当する」というレベルの取り組みではありません。経営トップ自らが旗振り役となり、経営戦略を熟知した組織と人材によって推進していく必要があるのです。

 また、開示が義務化されたから取り組むという受け身な態度でもいけませんし、チェックリスト的に項目を網羅すれば良いものでもありません。まずは本質的な目的である「いかに強靭(レジリエンス)な企業体質にしていくか」を念頭に置くことが肝要です。開示の義務化対象は上場企業ですが、人的資本経営は規模を問わず全ての企業において非常に重要な指針であることも知っておきましょう。そもそも、グローバル化・デジタル化・少子高齢化――こうした環境変化に置かれていることは、どの企業にも共通しているのです。

「ウチは中小企業だし、関係ない」では済まされない(出所:同前)

 自社の存在意義を明確にし、その意義を体現するイノベーティブかつ多様な人材を育成・確保し、そのエンゲージメントをスピード感を持って継続していくこと。そのためには「今ある人的資源をどう活用するか」という視点ではなく、人的資本を基に自社ならではの価値へと昇華させていく「未来視点」の経営スタンスが必要です。そう考えると、人材に投じる資金は「コスト」ではなく「投資」といえるでしょう。そもそも企業の中枢には「人」があります。根幹をなす重要な要素に惜しむ資金はないはずです。

 先ほども解説した通り、人的資本経営というテーマは全企業に問われています。従業員・顧客・取引先・求職者・株主・投資家・メディアなど、多岐にわたるステークホルダーの注目は今後も高まっていくはずです。ぜひ、今回の記事を参考にしながらアクションを始めてみてください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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