2つ目は市場原理によるものです。アルバイトの全国平均時給1276円(5月・ディップ集計)、東京、名古屋、大阪の三大都市圏での派遣社員の平均時給1663円(5月エン・ジャパン集計)と、すでに非正規社員の平均時給は10月施行後の最低賃金を大きく上回っています。
もちろん平均値なので職種によって変わってきますし、同じ東京でも23区内と郊外では差があるでしょう。市場の相場以上の時給を出さないとアルバイトが集まらないようであれば、経営側もそれを受け入れるしかありません。
3つ目は賃金のアップが雇用の減少に結びつかなかった事例があるからです。20年4月1日以降、同一労働同一賃金が適用されました。派遣社員にはその派遣先で働いている派遣社員と同じ仕事をしている人と同等の賃金(派遣先均等・均衡方式)、もしくは国が定める統計表で職種ごとの賃金以上(労使協定方式)を支払う義務が発生。その結果、厚生労働省の調べでは全派遣社員の半数以上の賃金が上がりました。上がらなかったのは、すでに派遣先の社員や比較する統計と比べて同等以上の賃金を貰っている派遣社員でした。
前後して新型コロナウイルスが流行して百貨店などの休業が始まりました。筆者の顧問先にも派遣会社がありますが、真っ先に浮かんだのは「リーマンショックのときのように契約を切られて困惑する派遣社員が大量に発生するのではないか」ということでした。そして、どうしたらいいかという相談が顧問先の派遣会社から毎日のようにくることを想定していました。派遣社員の立場は弱く、休業などの非常時には真っ先に契約を打ち切られるからです。
ところが予想に反して、派遣社員の契約解除による相談は少なかったのです。想定していた以上に派遣社員の受け入れ先企業が派遣会社に休業補償金を払ってくれたので、派遣会社はその原資を休業手当として派遣社員に支払えたからです。
背景には、国がリーマンショックの再来を危惧して受け入れ先企業に契約を打ち切らないようにお願いしたこともありますが、受け入れ先企業もいい意味で慣れてきた状況もあったと考えています。優秀な派遣社員を一度解雇しまうと同じレベルの人を見つけるのは容易ではない事実を認識していたのです。多少のコストが発生しても派遣会社との関係を維持しておいたほうがよいというスタンスです。
この判断は正解だったように思われます。ホテルなどのサービス業では、コロナ禍によって従業員を解雇した結果、インバウンド需要が戻ってきても従業員を確保できず、苦戦しています。一旦、手放してしまった従業員を呼び戻すのは容易ではありません。
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