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リスキリング実施で「失業手当」給付の前倒し 社労士が語る実態とリスク迷走気味の政府(1/3 ページ)

» 2023年09月04日 08時00分 公開
[佐藤敦規ITmedia]

 2023年6月、政府は「新しい資本主義」の実行計画改定案を発表しました。国として、リスキリングによる労働者の能力向上を支援し、労働市場の円滑化を進めていく方針が示されています。

 国が力を入れるリスキリングですが、企業ではどの程度浸透しているのでしょうか。また、政府が発表しているリスキリングの有無が失業手当給付に与える影響についても、社会保険労務士の立場から考えてみたいと思います。

政府はリスキリングに「何を」期待する?

 政府がリスリングを推進しているのは、2つの理由からだと思われます。一つは、労働人口減少による人手不足の状況に対応するためです。介護、運輸など人手不足に悩まされている業界では、DXによる業務の効率化が求められていますが、IT機器を扱える人材がいないため、なかなか導入が進まないという課題があります。

 もう一つは、一人当たりの生産性の向上です。昨今、失われた30年というように日本人の給料が上がっていないことが問題視されていますが、その要因となっているのは、生産性の低さです。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」によると、21年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は49.9ドル(5006円/購買力平価換算)でした。米国(85.0ドル/8534円)の6割弱しかなく、OECD加盟38カ国中27位という低い数字にとどまっています。

 一般的に生産性が上がらなければ、企業の収益も薄いものになり、社員に還元するのは難しいでしょう。給料を上げるためには、企業が利益を出し続ける仕組みを作らなければなりません。クライアントへの過剰なサービスなど日本の生産性の低さは、さまざまな要因がありますが、DXの遅れもその一つです。

 ITツールを使いこなせる人材を増やすために、リスキリングが必要だという発想です。リスキリングはDXと対になって語られることが多くなってきました。

 例えば、経済産業省はリスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。リクルートワークス研究所は、上記の考えに加え「近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている」と補足しています。

大企業と中小企業では温度差がある

 ではリスキリングについて企業はどの程度、取り組んでいるのでしょうか? リスキリングの実施と効果を公表している企業は大企業が中心のようです。23年度3月決算企業の人的資本開示におけるリスキリングの取り組み普及率は6.9%と芳しいものではありませんでした(リスキリングナビの調査より)。

23年度3月決算企業の人的資本開示におけるリスキリングの取り組み普及率は6.9%だった(画像:リスキリングナビ「人的資本開示におけるリスキリングの取り組み普及率についての調査」より)

 統計的な数字もさることながら、筆者も鈍いという印象を持っています。厚生労働省では、リスキリングに取り組む企業向けの助成金(人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」)も新設していますが、こうした助成金を案内しても企業の反応は芳しくないです。企業と面談していても、人手不足や最低賃金の引き上げといった話題が多く、リスキリングというキーワードは出てきません。

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