356億円が消えた「クールジャパン機構」の大失態 その“楽観的すぎる計画”の中身古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年11月06日 13時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「産業再生機構」の成功に学べ

 そのような状態のクールジャパン機構は立て直し可能なのか。過去の成功例は産業再生機構(IRCJ)だ。

 同機構は、経営困難に陥った企業の再生を支援するために日本政府によって03年に立ち上げられ、07年までのたった4年間で500億円もの利益を生み出して解散した政府ファンドである。経営破綻に陥ったカネボウや、第1号の支援案件となった「九州産業交通」をはじめとして40事業体の再生に成功した。企業の再建だけでなく、債権者への影響を最小限に抑えることで、経済全体への悪影響を避けることにも寄与した。

 ちなみにカネボウは現在「クラシエ」という社名で、今もそのDNAは受け継がれている。シャンプーなどで有名な日有用品大手のホーユーの傘下で多くの顧客の生活を支えている。

 海外でも、仏国の国営郵便事業者であるラ・ポストや米国の国営鉄道であるアムトラックのような万年赤字の官製企業が再生した事例がある。このような政府主導の事業が赤字から抜け出すためには、しばしば痛みを伴う構造改革や経営効率の向上が必要であり、その過程は複雑で時間を要する。また、市場の変化に柔軟に対応し、事業モデルを適時に更新する必要もあるだろう。

 成功例の共通点は、専門性の高い民間の知見を取り入れたことにある。短期間で大きな実績を上げた産業再生機構をはじめとして、これらの機関にはとりわけ金融や経営、事業再生の分野で豊富な経験と専門知識を持つ人材が集められた。これにより、難しい企業再生の案件に対しても、適切な戦略と手法を実行することができたのだ。

 人的リストラが原則として存在しない政府機関の人員では、どうしてもレイオフによる経営再建のノウハウに乏しくなる傾向にある。そこに民間の知見を投入することで、効率的な経営によって収支が改善する例が多いというわけだ。

クールジャパン機構が再建するには

photo クールジャパン機構の公式Webサイトより

 加えて、クールジャパン機構が推進する文化コンテンツの国際展開において、吉本興業のような大手芸能プロダクションの影響力が強すぎることは、多様性の喪失を招きかねない。特定の民間企業が国の戦略的プロジェクトと深く関わることは、その企業にとって有利な資金配分や不透明な決定過程を生むリスクをはらんでいる。

 公的資金を活用するに当たっては、多様なクリエイティブ産業に平等にチャンスが与えられることが望ましい。特定企業への過度な資金流入は、他の創作活動への投資機会を不当に奪う形となり得る。

 クールジャパン機構の初期目的である日本文化の海外展開や国内文化産業の活性化に、どれほど貢献しているかという成果測定が不透明なことも問題だろう。これに対処する手段としては中間報告の義務付け、そして外部監査の強化などが挙げられる。これらにより、国民からの信頼回復を図るとともに、公的資金の適切な運用を実現していかなければならない。

 クールジャパン機構の再建に当たっては、事業の透明性を高め、適正な評価と監視メカニズムを設けることが急務だ。それがなされない限り、批判は根強く残ることになり、成果を出せないまま清算に向かう可能性がある。損失を出したプロジェクトの責任を明らかにし、適切な責任追求を行う必要もあるだろう。これにより、組織内での責任感を高め、リスク管理を徹底することも重要だ。

 また、機構内部での成功例や失敗例にとどまらず、IRCJをはじめとする他の政府出資事業における再建例や成功例なども集約し、機構内部に当てはめていくというプロセスも必要になりそうだ。クールジャパン機構の未来は不透明だが、過去の教訓を生かしつつ、明確な目的と戦略の再定義が必要だ。真のクールジャパンの魅力を世界に発信し続けるためには、専門性の高い多様な民間人材の活用といった抜本的な対策が求められる。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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