「ゆで太郎」の“弟分”「もつ次郎」が、急成長しているワケスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2023年11月07日 11時41分 公開
[窪田順生ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

「どん三郎」のスペースができる日

 メディア『URBAN LIFE METRO(アーバンライフメトロ)』による『『美味しんぼ』でシェフが脱帽した「モツ煮込み」、実は150年以上の歴史を持つ東京の伝統料理だった』という記事を引用しよう。

 『1886(明治19)年に初演を迎えた歌舞伎の演目「初霞空住吉(はつがすみそらもすみよし)」においては、貧乏な登場人物が“牛の煮込で丼飯か”と言います。煮込みは庶民のご飯の友ともなっていたのです。

 やがて煮込みは、丼飯の上にかけるようになり、屋台などで丼物として提供されるようになります。煮込みをかけた丼物は「かけ」「ぶっかけ」「牛めし」と呼ばれていました。本郷に牛めし元祖を名乗る店がありました。1897(明治30)年頃、野口英世が通っていたその店においても、丼飯の上にかける肉は内臓肉の煮込みでした』(アーバンライフメトロ 23年3月9日)

 このような「内臓肉丼」の時代がたつにつれて、牛すじ肉になって、正肉になって現在の「牛丼」になったと言われる。実は「もつ煮丼」は牛丼、かつ丼、焼肉丼などよりも長い歴史を誇る「日本の伝統的なソウルフード」なのだ。

 浅草や京都でレンタル着物を楽しんだり、古い置物のような土産を購入したりするのは、日本人よりも外国人のほうが多いことからも分かるように、こういう売り文句は日本人より外国人観光客のハートをワシづかみにする。

 しかも、海外では内臓料理を食べる国が多いので「もつ煮」にそれほど抵抗はない。

 立ち食いそばは、既に海外では「日本の伝統文化を気軽に堪能できるスポット」としてガイドブックに掲載されている。そんな場所に「日本の伝統的なソウルフードを食すことができる」という魅力が加われば、さらなる成長も期待できる。

 もちろん、なかなか給料が上がらない日本のサラリーマンにとっても、安くてスタミナのつけられる「もつ煮丼」はありがたい存在になっていく。

 これから世界的な食糧不足も指摘されている中で、牛肉価格が高騰していくという予想もある。戦後の闇市で貧しい日本人の食卓を「もつ煮」が支えたように、令和日本でも「もつ煮」や、内臓肉をご飯にぶっかけた「もつ煮丼」の出番は増えていくだろう。

 「ゆで太郎」の中にちょい呑みができる「もつ次郎」が併設されたことに続いて、今度は牛丼チェーンのように、さまざまなもつ煮丼を提供する「どん三郎」のスペースができる日も近いかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.