さようなら、マザーズ指数 「日本版ナスダック」になれず低迷した3つのワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年11月10日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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最大の欠陥は「成長したら指数から外れる」こと

 ナスダックが成功を収めた背景には、イノベーションを重視する市場環境と構成銘柄が優れていたことがあるだろう。技術革新を起こす企業に対するリスク資金の提供が活発で、グーグルやアマゾンといった巨人もここから生まれた。米国でシェアが高い金融商品取引所といえば、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダックがあり、前者は大型銘柄、後者はテック・グロース銘柄を得意としており、ちょうど東証プライム市場とグロース市場のような立ち位置にあるようにも思える。

 しかし、米国では日本のように取引所が1ヵ所にまとめられているわけではないため、ナスダックで成長したからといってNYSEに昇格するというような仕組みではない。そもそも両者は別事業者であり、ライバルという関係でもある。そのため、グーグルやアマゾンのようなテックの巨人は、100兆円を超える時価総額であっても引き続きナスダック市場に軸足を置いているのだ。これが、ナスダック指数が高いパフォーマンスを出し続けられる要因なのである。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 その一方で、マザーズ市場(現グロース市場)はあくまで東京証券取引所内の区分にすぎない。そのため、マザーズ市場で頭角を現して成長してきた企業は、当時の東証1部(現プライム市場)に格上げという形で召し上げられてしまう。召し上げられてしまった元マザーズ市場銘柄は、マザーズ指数から除外されTOPIXに組み入れられるのだ。

 直近の例でいえば、「にじさんじ」を運営するANYCOLORが象徴的だろう。同社は22年6月に東証グロース市場へ上場を果たしてから、わずか1年後の23年6月にプライム市場へ格上げとなった。これにより、当時のマザーズ指数は除外の余波を受け、1日で1.5%も下落したのである。

 このように、マザーズ指数最大の欠陥は、成長してパフォーマンスが出るようになったら市場区分が変わり、指数から除外されてしまうことにある。ちなみに、新しい「東証グロース市場250指数」においてもこの欠陥は治癒されていないことから、今後の東証グロース市場250指数についても同様の弊害が発生する可能性がある。そのため、東証グロース市場250指数に連動するような投資信託がリリースされた際には十分警戒をしておくことが必要となるだろう。

 グロース市場からプライム市場に格上げとなる条件は複数あるが、特に重視される経営・財務面において、過去1年間の売上高が100億円以上かつ市場区分の変更時見込みベースで時価総額が1000億円以上となることが一つのバロメーターとなっている。

 ただし、変更時見込みの時価総額が1000億円といえども、現時点で1000億円ぴったりの時価総額だからといって承認されるわけではない。マクロの経済動向による株価変動などのリスクなども加味して、おおむね2000億円ほどの時価総額が安定的に見込めるようになったら市場区分の変更が議論になるケースが多いようだ。

 現時点で時価総額2000億円近辺のグロース市場銘柄のうち、「ビズリーチ」を運営するビジョナルが3122億円でトップだ。また、会計ソフト大手のフリーが1878億円で次点となり、vtuber事務所「ホロライブ」を運営するカバーが1616億円となっている。これらの企業も順当に成長を続ければ自ずとプライム市場に格上げされることになり、相対的な東証グロース市場250指数の魅力はますます落ちてしまうリスクがある。

 このように、マザーズ市場は、有望な銘柄ほど指数から外れやすく、投資リスクの高いほど残留しやすいという構造で、有望銘柄が外れる際には決まって指数全体が下落する仕組みになっていることが最大の問題点だ。この仕組みは「東証グロース250指数」に移行しても変わっておらず、まともな投資家であればそんな仕組みの株式指数に投資しようとはなかなか思わないだろう。

 ナスダック指数のようにアップルやマイクロソフトのような高成長を遂げる巨人のような銘柄が非常に限られていたのも指数パフォーマンスが全く上がらなかった要因であるといえる。

日本の有望グロース銘柄はいち早く昇格すべき?

 東証グロース市場250指数は、東証再編による影響として生まれたもので、マザーズ市場とJASDAQ市場を統合した点で市場構造のシンプル化に成功し、国内外の投資家にとって理解しやすく投資しやすい環境が整った点は称賛に値する。また、グロース市場に注目が集まることで、新興企業が資金調達をしやすくなり、成長の機会をつかみやすくなることも期待されているのは確かだ。

 株式指数ビジネスが成功すると、市場の深度と流動性が増す。これにより、投資家は多様な資産に対するリスク分散を図りやすくなり、また小規模・中規模の成長企業への資金流入が促進される。成功した指数は、国内外の投資家にとって魅力的な投資先となり、経済全体の活性化に寄与する。企業のイノベーション促進と経済成長が期待できるため、長期的な国の競争力強化にもつながる。

 しかし、昇格を前提とした日本のグロース市場と、市場の中で成長し、市場全体の価値を高めることで投資マネーを呼び込むことを前提とした米国のナスダック市場はそもそもの仕組みの点で方向性が大きく異なる。従って、よほどの理由がなければ日本のグロース銘柄はグロース市場にとどまる理由が現状ない。有望な銘柄はいち早くプライム市場に移り、TOPIXをベンチマークとする投資家の資金流入を期待すべきであるといえそうだ。

 結局のところ、東証グロース市場250指数は今後も「日本版ナスダック」のような地位を確立することはないだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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