例えば、メーカーが自社製品の販売強化のためにデジタルサイネージを導入してほしいと小売店舗に相談したとしても、商品の売り上げが、商品Aから商品Bに移るだけだと、小売側にとってAとBのどちらが売れてもトータルの売り上げがそんなに変わらないのであれば、わざわざコストや労力をかけてやろうとは思いません。
結局、メーカーが負担する広告費と手間のバランスで導入が決まっています。デジタルサイネージに視聴状況を測定する機能をつけるサービスが各社から提供されていますが、PoC(概念実証)で終わることが大部分であるのは、わざわざ計測のコストをかけて小売にとっての費用対効果がないという検証をしているからです。
しかし、商品Aが売れると商品Cも一緒に売れるようになれば、商品棚全体の売り上げが上がり、店全体の収益を上乗せできるため、小売店舗が積極的に取り組む可能性はあります。メーカーとしては小売店舗に生活者側のニーズに合わせた売り場づくりを提案し、店舗全体の収益につながるデータを取得するために、デジタルサイネージとAIカメラの導入を検討してもらうという提案は有効と考えます。
その後データ検証して、仮説と検証を繰り返すことで効果が出てくれば、デジタルサイネージを導入したことによって、小売店舗の売り場の収益も上がり、メーカーも収益が上がるのでWin-Winになります。
メーカーからすれば、たとえ効果が出なくて本導入に至らなかったとしても、少なくともデータは取れていて、何かしらのインサイトは得られるメリットが大きいものです。それをもとに訴求内容を変えたり、表示時間を変えたりと、顧客の興味を引くコンテンツをブラッシュアップしていくことができるので、メーカー主導でも実施するメリットはあります。
リテールメディアは、ただの新しいマーケティングツールではありません。それは、生活者との新しい「関係性」を築き、深化させる重要な手段でもあります。日本の小売業界がこの新しい波をしっかりと捉え、独自の進化を遂げることを期待します。
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